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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しろがねでいっぱいの

 

 

加藤鳴海の4日間。

 

 

その4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く迎えに来てくれよ、頼むから」

このセリフを言ったのは、一体これで何度目だろう。

 

 

 

鳴海は昼前に電話で起こされた。

胸元に張り付くしろがねを引っぺがし、受話器をとると、興行先に着いた勝からの電話だった。

「ホントに頼むって」

鳴海は電話の向こうの勝に懇願する。

しろがねと過ごさなければならない夜は後、二回もある。たった二回と思うなかれ!しろがねの威力は破壊的なのだ。多少は慣れるかもしれないが、手を出さない自信が時間が経つにつれなくなっていくのが自分でもはっきりと分かる。

だけど、まさか勝に「しろがねと同じ布団で寝た」とか「しろがねに夜這いされた」とか「おかげで性欲を我慢するのに困る」とか詳しい事情を愚痴るわけにもいかず、仕方がないとはいえ、勝には今ひとつ鳴海の辛さが伝わらない。

 

 

 

「そんなに、にこやかなしろがねって一緒にいて辛いのかなぁ」

情報を充分に伝えられていない勝は、『鳴海に懐くしろがね』に鳴海がどうしても慣れなくて悲鳴を上げている、くらいの認識しかやっぱりできない。

「勝にとっちゃ、今のしろがねもそんなに違和感がねぇのかもしれねぇけど、オレにゃ何であいつが懐いてくんのか、わけ分かんねぇよ」

普段のしろがねからは想像もできない、素直なしろがねなんてどう扱っていいのか分からない、と鳴海が口にするのを勝は黙って聞いている。どちらが年上か分からない。

「僕、思うんだけど。しろがねってずっと兄ちゃんに甘えたかったんじゃないのかなぁ?」

「はあ?あいつがかあ?」

「きっと、記憶と一緒にしろがねの心の“殻”みたいなのもどこかに行っちゃったんだよ。だから、今のしろがねはナルミ兄ちゃんに対する気持ちを素直に表現していると思うんだ」

ってことはなんだ?黙りこくる鳴海に、勝はさらに言葉を続ける。

「普段のしろがねも、今の記憶を失くしちゃっているしろがねも、同じなんだよ。しろがねはしろがねなんだから」

「何だか…おまえの言うことは難しいな。オレにはさっぱりだ」

 

 

 

電話を切って、勝は思う。

ナルミ兄ちゃん、鈍すぎ。

小学生の僕だって、しろがねが兄ちゃんのこと好きだって分かるのに。

 

 

 

 

 

 

 

電話を切ると傍にしろがねが立っていた。

勝との電話の内容を聞いていたようで、ちょっと困ったような顔をして鳴海の傍に寄るのを躊躇っているようだ。

何だかそんないじらしい態度もかわいい。

「いーよ、気にすんな。こっち来い」

すると、しろがねの顔は『よかった、嬉しい』といったものになり、鳴海の胸元にぴと、とくっついた。

鳴海は手のやり場に困ったが、結局しろがねの頭を撫でることで落ち着いた。

「あー…、支度して、買い物がてら、昼メシでも食いに行くか?今、食うものが何にもねぇんだ」

しろがねは鳴海を見上げると微笑みで返事をする。

鳴海は心臓をドキドキ言わせながら、しろがねにくっつかれるのは悪くない、と再認識した。

 

 

 

 

 

 

 

悪くないんだけど。

外を歩くときはかなり恥ずかしいことが判明。

でも、ついさっきしろがねに「くっついてもいい」と許可した以上、この腕を無下に振り払うこともできない。

簡単に昼食をとった後、当座の食料を買いに近所の商店街に来たのはいいのだが、鳴海の腕には幸せそうにしろがねが寄り添い腕を絡みつかせている。

店に入るたび、もしくはすれ違うたび

「あら、鳴海ちゃん、隅に置けないわね。彼女ができたの?」

「まあ、鳴海くん、その娘、川原によくいるサーカスの娘さんでしょう?そういう関係になったの?」

「おう、鳴海。とうとう彼女ができたか!これで死んだじいさんも喜ぶなあ」

と、店のおじさんやら、近所のおばさんやらにちゃちゃを入れられる。

声をかけられると、しろがねは嬉しそうににこ、にこ、にこと輝く笑顔で応対する。

こうなると、しろがねが記憶が戻ったら、「鳴海ちゃん、フラれたの。早かったわね」

といった類の噂が流れるだろうことは鳴海にも簡単に想像できた。

 

 

 

帰り道、

右手には大きな買い物袋をいくつも提げて、

左腕にはしろがねをぶらさげて。

鳴海は傍らのしろがねを見つめた。すると、それに気づいたしろがねも笑顔を向ける。

そんなにこいつ、オレといるのが嬉しいのかな。

しろがねは跳ねるように歩きながら、よほど機嫌がいいらしく鼻歌がこぼれている。

しろがねが嬉しいと、鳴海もまた嬉しかった。

しろがねにくっつかれるのは悪くない。全然、悪くない。

鳴海は改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

しろがねはしろがね、か。

昼間の勝の言葉を思い出しながら、自分の腕の中でスヤスヤと眠るしろがねを見遣った。

どうなることかと心配したが、今日は昨日ほど興奮することはなさそうだ。

いまだ股間は無駄に硬くなっているけれど。

勝は頭がいいからな。しろがねに一番近く、一番長く傍にいるのはあいつだし。

鳴海は勝の言うことは間違っていない、全て正しいと無条件で受け容れるところがあるので、この言葉も定理として呑み込んだ。

なら、しろがねはあの澄ました顔の下にオレへの気持ちを押し隠していたのか。

「このしろがね」がオレにしていることをずっとしたいと思っていたのか。

そう思うと、記憶を失う前のしろがねがとても愛おしく思えた。

急に元のしろがねに会いたくなった。

ひねくれもんめ。

オレは鈍いんだから、あんなんじゃ気がつかねぇよ。

「早く…元に戻れよな…」

しろがねの銀色の髪にそっと触れる。

しろがねの自分に対する気持ち、自分のしろがねに対する気持ち。それらがすっきりと心の中に収まって、これからしろがねとどうしていきたいのかが明確になった鳴海はとても清々した気分になった。

今夜はもう少しして落ち着いたら、何とか眠れそうだった。

 

 

 

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