忍者ブログ
『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

原作にそったパロディです。
年齢制限有りです。





◆この酒を止めちゃ嫌だよ酔わせておくれ
 まさか素面じゃ言いにくい 1/2◆





仲町サーカス初の東京公演の皮切りを目前に控えたある日の夕方、道具方の手伝いをしていた鳴海の元にノリ・ヒロ・ナオタがやって来た。
「ナルミ、ちょっと」
物陰からこそこそっと呼び掛ける。何だか悪そーなカオしてんなぁ、と腹の中で思いつつ
「何スか?」
と近寄ると首根っこを三人がかりで押さえられた。
「今からさ、男だけで街に行こうぜ?気合い入れにさ」
と誘われる。
「街?でもオレ飲めないですよ?」
「酒、も飲むけど。真の目的はそれじゃない」
じゃあ何ですか、と言った目を向けるとその鼻先に小指が三本突き付けられる。
「いーい店を見つけたんだよ」
ヤニ下がった目でナオタが言った。
「可愛い子がいっぱいで」
うぷぷ、と堪え切れない笑い声をかみ殺してヒロが言った。
「せっかく手伝いに来てくれてんだ、おまえの分はオレ達が奢っちゃる」
と鼻の穴を膨らましたノリが言った。


「おまえってどーせ、しろがねしか女を知らねぇんだろ?」
図星を差されて鳴海は耳まで赤くする。
「それは…そのとーり、スけど…」
「他を知っとくのも悪くねぇって」
「でも」
決まった相手がいる男がそういう場所で遊ぶのはよくないことなのでは、という疑問は
「奢る、つったら平馬も行く行くーって、ノリノリで言ってたし」
と具体的な例でもって封殺された。平馬には涼子がいるけれど、彼らはまだ恋人同士なわけで。夫婦である自分たちとは重みが違うんじゃないか、それ以前に平馬の問題は年齢ではなかろうか、とか口に出す前に
「おまえ、風俗行くのも初めてなんだろ?」
と話が勝手に進んでいく。
「それもそのとーり、スけど…」
「大丈夫だって。これも社会勉強社会勉強」
「フーゾク、って要は、お店の女のコにお金払ってヌいてもらう、場所、でしょ?」
「そうそう」
鳴海は険しい表情で、うーん、と悩んでいる。


「何だよ、しろがねが怖いのか?」
「それもありますケド」
「もうバレた時のこと考えてんのかよ?」
「そこんとこは心配ねぇって。オレたちみんなで口裏合わせんだから」
「おまえが嘘下手なのも分かってら。オレらがフォローすっから」
三人がかりで説得する、も
「やっぱ、止めときます。せっかく誘ってもらったのに申し訳ないっスけど」
と鳴海はサバサバとした顔で断った。その表情には後ろ髪を引かれている様子はカケラもない。
「何でえ?」
異口同音が三つの口から飛び出した。
「おまえってツラに似合わず恐妻家だなぁ」
「それも否定しませんよ。でもそれより、そういう店に行ってもオレの場合、時間とお金の無駄になっちまいそうで」
「は?」
「誰が相手でも、しろがね以上には気持ちよくなれなさそうで。それじゃ本末転倒だし、相手してくれるヒトに悪いでしょう?」
「「「……」」」
「だから、すんません。気持ちだけありがたく頂くっス。オレの分はみんなの酒代にしてください」
鳴海はペコリと頭を下げると、スタスタと仕事に戻って行った。
ノリヒロナオタはその泰然自若とした後ろ姿を見送って、背中を丸めて額を突き合わせた。


「あいつって結婚何年目になるっけ?」
「もうじき5年じゃね?」
「しろがね以上に気持ちよくなれなさそうって…」
「当たり前じゃねぇか…」
「オレだってしろがねが嫁だったら」
「フーゾクなんかに行くかっての」
「当たり前のことをいけしゃあしゃあと…」
「ノロケやがって…!」





仲町サーカスの三羽烏、ノリ、ヒロ、ナオタはしろがねのことが好きだった。
三人とも、彼女と初めて出逢ったその日から心を奪われた。どんなに熱烈にアピールしてもクールな彼女には軽く往なされる日々、それでも時折見せる淡い微笑みは自分だけに向けられていると心から信じて、いつか結ばれる日を夢見て彼女への愛に生きていた。
けれどそんな純情な三人の失恋はあっさりと訪れた。
ひょんなことから仲町サーカスのアルバイトになった不愛想な男・加藤鳴海としろがねが何だかんだでべちょっとした関係だったのだ。
どうしてかしろがねに辛く当たる鳴海から、彼女のことを三人は庇った。それでもしろがねは鳴海が好きらしく、正直なんであんな無口で感情も無く死んだ目をした男がいいのか理解がまるで出来なかったのだけれど、ボードヌイに収容された三人を出迎えた鳴海がまるで別人のようになっていて驚き、理解した。
鳴海はよく喋りよく笑いよく動いた。気回し上手でお節介焼きで、ああ、あの頃のあいつって不幸の女神に魅入られていただけだったんだな、元々のあいつはいい笑顔の男だったんだな、って分かった。だから、しろがねは鳴海をずっと愛していたんだ、どんなに辛くても、と。本来の鳴海が戻ることをずっと待っていたんだ、と。
何より鳴海の隣にいるしろがねが一緒になって明るく笑っているのを見た時、三人は完全に白旗を上げた。自分達では、あんな風に笑わせてあげられなかったから。


あれから5年。
仲町サーカスは知名度のあるサーカスになった。新しい団員も増え、三人はそれなりの立場になり、それなりに羽振りも良くなった。
だけれど三人とも独身だった。
サーカス稼業が多忙なのは否定しない。でも、周りの団員だって所帯を持っているのはいるし、若い平馬だって涼子とウマいことやっている。旅の空でどこをほっつき歩いているか分からない勝だって、仲町で待っているリーゼがいる。
平馬には「三人ともガッつき過ぎなんだよ」と言われる。そんなことはない、と自分では思っている。だから
「オレたちはまだ、しろがねに心を奪われたままなんだな」
と結論付けて納得している。
平馬には「それって逃げでしょ」と言われたけれど、決して逃げてはいない、純愛を貫いているだけなのだ。


あれから5年。
移動サーカスをして世界中を回っている鳴海としろがねは時々仲町サーカスに身を寄せる。そして、いつだっていまだに新婚夫婦のような空気を醸している。5年も経つのに。
『しろがね』のふたりは実質ひとつしか年を取っておらず、見た目が全く変わらない。それどころか、帰国の度にしろがねの美しさには磨きが掛かっていて、そのスレンダーな中にも丸みを帯びたラインから、如何に夫婦性活が満たされているかが見て取れる。
満たされている人妻のしろがね、想像するだけでムラっと来る。
『人妻を寝取る』、何という甘美な響き。
それは古今東西、背徳的な男の浪漫だ。


とはいえ、とてもじゃないけれど彼女の夫、加藤鳴海には敵わないことは重々理解している。
体格もさることながら、中国拳法の達人で硬気功使い、右腕両脚はあの高火力なマリオネットの義肢、自動人形との死線を幾つも潜り抜けた男。とてもじゃないけど、寝取る、なんて出来ない。やった日には完膚無きまでにミンチにされる。手脚を失ったことすらもしろがねと結ばれた対価として考えれば安いもんだと笑い飛ばせる、その愛の深さ。そして何より、男なら驚愕と羨望の目を向けざるを得ない巨きな根っこを持っている。
アレに慣らされたしろがねをどう満足させられるものか、皆目見当もつかない。


そんなわけで鳴海には敵わない。でも鳴海にはぎゃふんと言わせたいと、三人はずっと思っていた。そこへ来て今日のあの発言、何とかしてあの幸せいっぱいのノロケ野郎に目にモノ見せてやりたい。
なので、三人は考えた。自分達が鳴海に勝てるジャンルは何か。三人寄れば文殊の知恵、てほどでもなく、答えは意外と早く出た。
ノリヒロナオタvs鳴海、で勝機が確実に自分達にあるもの。
それはアルコール。
三人は風俗を満喫した翌日、鳴海を部屋飲みに誘った。ノリの部屋で平馬も誘っての男五人、大量の酒と肴を持ち込んでくだらない話題で盛り上がる。まるきり下戸の鳴海にはジンジャーエール。
平馬には三人の思惑は内緒、平馬がいれば鳴海のガードはかなり下がるので、そこんとこも織り込み済みだ。


こんな時に下ネタは付き物だ。三人はこれまでに何度も『鳴海としろがねの性活』を訊き出そうとチャレンジしているものの、シラフの鳴海はまるで話に乗って来ない。恋女房の痴態を他の野郎どもに知られたくない鳴海は、ぱく、とも口を割らない。
だからアルコールが入れば口が緩むかと飲ましてみたら、ガッツリと潰れてしまい、三日酔いに苦しむ鳴海の姿にしろがねがキレ、ノリ達は凄まじく怒られた。
でも、アルコール入りの鳴海の口が、潰れるまでの一瞬、軽くなったのは事実だったから、今回は潰れない程度に少しずつ隠して飲ませてアタリを取る作戦に出た。
ジンジャーエールに極少量のビールを混ぜる。ジンジャーエールチョイスは色味と炭酸を誤魔化すため、動物並みの鳴海の鼻を鈍らすために、ノリ達はアイラウィスキーやら日本酒やらを飲む。鳴海は思惑に気付くことなくグラスを口に運び、三人はニンマリとほくそ笑んだ。


鳴海に一矢報いる方法。
鳴海から「セックス中のしろがねの様子」を語らせること。
非常にささやかな報復。そんなことで、おそらく潰れて起きたら記憶を飛ばしてるだろう鳴海がぎゃふんと言うかも怪しい。が、鳴海が「エロいしろがね」を自分以外の男に想像されることを嫌がっているのは確かだ。
それに、三人にはとても重要な情報なのだ。実体験が叶わないなら、実体験しているかのようなリアルな話を訊き出すべし。想像力が豊かになるためのネタが潤沢になることが大事なのだ。
まずは前日での風俗話を三人して披露して(平馬にも勿論暴露させた)、下ネタの土壌を広げまくる。鳴海のアルコール濃度をほろ酔い加減に微調整しきった辺りで「オレらはみんな晒したぞ、後はおまえだけだぞ」な空気を作った。
お膳立ては完了、さて本題に入ろうか。


「で?しろがねってそんな時どうなのよ?」
「かわいーんだろーなー」
「そりゃもう、かわいいですよ」
「いーなー、おまえは幸せもんだなー」
「少しお裾分けしてくれよー」
「絶対ヤです」
ここまではいつも通りの流れ。
「しろがね、どんな感じ」
「どんな…」
考えを巡らせた、と思いきや、かくん、と鳴海の頭が前に落ちた。
「おい、どうした?」
「…眠い…」
「マジで?」
「もうか?」
ビール摂取量は、コップ一杯にも達してない。
「あれ?もしかしてナルミさん」
「し。黙っとけ、へーま」
鳴海がアルコールを飲まされていることに気づいた平馬に素早く釘をさす。
「オレ、知りませんよー?後でカミナリ落ちても」
「オレらにはそれを乗り越えても為さねばならぬ志があるのだ」
「寝ていいスか…」
「待てナルミ、オレらの質問に答えてからな!」
「答え切ったら寝ていーから」
「何スか…」
糸目がしぱしぱと瞬いた。


「とりあえず、しろがねの『ナカ』どんな?」
「ナカ?」
「(規制)のナカだよ」
さて、どうか。いつもなら「絶対答えませんよ?」と硬い拳をチラつかせた笑顔で返されるところだが。眠たそうな糸目を天井に向けて
「…んー…ヒダヒダしてて…ウネウネしてて…」
シラフだと絶対に口を割らない鳴海が答えた。
やった!いい感じに酔った!
三人は心の中で小躍りし、お互いに見交わして作戦の成功を喜んだ。
「で?それから?」
「で、凄い吸いついてくる…奥ーに行くほど狭くなって…突き当たりがツブツブしてて…」
「…まあな、オレ達のしろがねが凡なワケねーな。ミミズ、カズノコは当然」
「生まれつきのだもんな、ソレ」
「オレ、すげえミミズ嬢に一度当たったことがある。瞬殺だった。でも萎えねえんだよ。おかげで、あの嬢にどんだけ貢いだか…ハマったなあ…」
「ストローサーカス潰した時っスか」
「へーま。言うな、それを」
「おまえ、マジで幸せもんだぞ?分かってんのかナルミ」
「…そうなんスか?オレ、よくわかんないスけど…」
酒入りジンジャーエールで口を湿らす。
「女のヒトってみんなそうなんじゃないんスか…?気持ちよさってのはあくまで愛情の問題で…」
「しろがねしか女知らねぇからっててめえ…」
「おまえ、ボコるぞ?」
「酒が回ってるおまえならそこそこ殺れる気がする」
「うー…なんでこんなにねみーんだ…」
鳴海は男三人の殺意の前で眠たい目を擦っている。


「へー。そんじゃあしろがねさんのコト、手放せませんね、ナルミさん」
「おうよ、そらもう」
この会の目的を知らず、ブラコン全開の目で鳴海に語りかける平馬のせいで、鳴海がノロケ話に移行しそうな勢いになる。別に、にへっとニヤけた鳴海の口からそーゆーのを聞きたいワケじゃない。
「おい、へーま」
「いいなあ。オレ、リョーコとしてもよく分かんなくて。締まる、てのも最初から最後まで一定な気がしてさ。オレの努力の問題なのかな?しろがねさん、具体的にどんな感じ?」
「ああ、何てゆーか…いれた先からずっとうねってるし、しぼられるんだけど…イきそうになるとときどき、いたいくらい…」
ふたりのやり取りを遮ろうとしたけれど、純粋な『弟』からの相談に、アニキの性分が真面目に素直に返答を始めたので静観する。
「サオをこう…根元から先まで、ぎゅーと握られてるような感じ」
タオルを肉棒に喩え、手振りを加え、更に
「じゃあさ、ナルミさんのイかせるテクってどんな?」
という質問を受けて
「テク、なんざ持ってねぇけどな、オレ。でも心がけてんのは…」
と説明と言う名の赤裸々なプレイを様々語り出したのでホクホクと聞く。三人は平馬を誘って良かったと思った。おそらく今の鳴海はこの場に平馬しかいないアタマになっているんだろう。
平馬が訊きたいのは「見習うべき男の在り方」なのだが結果、「エロいしろがねの話」を聞き出しているので、三人にはノーリスクハイリターンでありがたいことこの上ない。


「……で、その頃になると、すいつかれる、ひっぱりこまれるのがとんでもねぇ…何だか良く分かんねぇ状態になってこっちはひたすら堪えるのに必死になる…」
「三段モノの俵締めに蛸ツボかよ」
誰かがボソッと言った。
「蛸ツボってさ、女の気分に左右されるって言うじゃん。惚れてる男相手にリラックスしないと」
「悔しーけどさ、しろがねはナルミにぞっこんなんだなぁ」
「認める」
「アソコら辺の筋肉鍛えるのはもちろん、柔軟性って大事なんだよな。その点、しろがねは申し分ないし」
外見は抜群のプロポーションを誇る絶世の美女、中身は男性垂涎の名器、そんなしろがねにベタ惚れされたら、そりゃあもう他に見向きも出来ないだろう。鳴海への羨望とやっかみが止まらない。それだけ裏を返せば、しろがねのことを満足させている、ってコトなんだろうが。
当の男は、くああっと大きなアクビをして、今にも寝落ちしそうだ。


「まだだ、ナルミ、寝るな!」
「何スかもう…ねむくて…もう、無理っス…」
「最後!最後の質問!」
「しろがねは何されるのが一番乱れ…いや、一番好き?」
「…いちばんおくを突き押しされるコト、かな…」
「ソレされるとどうなる?」
「…イきっぱなしになって、失神する、ス…」
「最後!しろがねの好きな体位は?」
「もー…いくつさいごがあるんスか…」
「オレ達ひとりずつに最後があるんだよ」
「…どれでも中イキできるから特にはないみたいだけど…でも向かい合わせの方がしながらキスできていい、て… …前に…」
バタム、とついに鳴海は床に伸びた。スヤ、と寝息を立てる男は放置して話は続く。抜きネタは当座困らないだけ仕入れることが出来たからもう寝てくれて大丈夫。


「ナオタにゃ無理なヤツだ」
「何でだよ」
「おまえの短いからな。届かねーだろ、ポルチオ」
「じゃあおまえはどうなんだよ」
「こればっかは、カラダの相性ってのもあるしなぁ」
「エロ話目当てだったの?みんなしてナルミさんの口割らそうとしてたワケ?酒飲まして?」
「だってアイツ、マジで口かてぇんだもん。酔わせねーとさ」
「でもついに成功したな」
「やー大漁大漁」
「しろがねさんに怒られてもしらないっスよ?」
「なぁに言ってんだ。今回の殊勲賞はおまえだぞ?」
「へーま、おまえ、マジでかした」
「え?オレ?オレは別に何も」
「おまえが一生懸命質問したからナルミも一生懸命答えたんだぞ?自分でどんだけ訊き出したと思ってんだよ」
「はっはー、おまえも共犯な」
「ええ、そんなあ」
「だからしろがねにチクんなよ?」
そこに、コンコン、とノックの音が響いた。


「失礼します。ナルミを迎えに来たのですが…」
ひょこ、としろがねが顔を覗かせた。一瞬、みんなして黙る。彼女のカラダの、下の方を舐め回すように凝視してしまうのは仕方ないことだと思う。平馬は申し訳なさと恐怖が先に立って俯いた。
「ナルミは…」
「あー、ナルミね。ナルミはここ」
指差された場所に転がる夫の姿にしろがねの眉間に皺が寄る。いつぞやの三日酔いは記憶に新しい。
「やだ、みなさん、ナルミに飲ませたんですか?」
「飲ませてないよ?けど、オレのシャンディガフと間違えたみたいで」
さらり、と誤魔化す。そのためのジンジャーエールだ。
「そうですか。間違えたのなら仕方ないですね」
基本、しろがねも素直で疑うことをしないので助かる。夫の傍に膝をつき、ゆさゆさと揺すった。
「ナルミ?そろそろお暇しましょう」
「ん…」
今回は東京公演なのでふたりはテントまでさほど遠くない加藤家から通っている。お酒を飲んだならバイクは無理だ。タクシーを呼ばないと、と考える。
「ね、ナルミったら」
やさしい手に揺り起こされて、薄く目を開ける。細い視界に眩い銀色の乱反射。鳴海はムクリと身体を起こした。


「しろがね…」
ふや。と相好を崩して、愛妻の頰に左手を伸ばす。苦手なアルコールを飲んだと聞いたので心配をしたけれど、夫が笑顔を見せたのでホッとする。
「起きた?ナルミ、もう遅いから帰りま…やっ」
突然、抱きすくめられた。長い両腕に巻き取られ、膝の上に誘われる。豊満な乳房が硬い胸板に押し付けられ柔らかく形を変える。アルコールのせいか、鳴海が熱い。
「ちょ、ちょっとナルミ!?一体どうし…ん、んんっ」
唇が重なった。当たり前のように舌を絡めてくる。いつも通りの鳴海のキスだけど、TPOがおかしい。普段の鳴海だったら絶対にパブリックスペースや人前では(さすがに)こんなキスをしないのに。
「おお…」
ノリ達三人はいきなり始まった濃厚なキスシーンを食い入るように見ている。羨ましいもあるけれど、艶めかしいしろがねの表情はやっぱり美味しい。平馬も見てはいるけれど、三人のようなエロ目的ではなく、後学のため、みたいな目をしている。
しろがねは懸命に唇の間に両手を差し挟み、キスから逃れた。しろがねのつれない態度に鳴海の顔が曇る。


「なんでよ?」
「なんでってダメでしょ?何してるの!?」
「何って…抱きたくなった…」
「え?何言って…あ…っ」
酔っている鳴海は理性の制御は利かない。本能のまま動く。しろがねの身体を床の上にそっと横たえ、のし掛かる。しろがねの身体のラインを撫で上げながらシャツの裾を捲った。ブラジャーが剥き出しになり、三羽ガラスは「うひょう!」と覗き込み、平馬は流石にコレはヤバいのではないか、止めるべきか、自分の力で鳴海の暴走を止められるのか、とオロオロする。白い首筋にキスを刻み、今度は手の平が撫で下りズボンを脱がそうとした。
「やだ、皆さんのいる前で…!」
しろがねは青くなる。懸命に押し返そうとしても、この体格差と腕力の差は如何ともし難い。更に酔ったせいでリミッターが外れてる。
「ナルミ、いいぞもっとやれ!」
「最後までやってみせろ!」
「オレ達が見届けてやる!」
ノリ達が余りにも囃し立てるので素直なしろがねにも「間違って飲んだのではなく、飲まされたのではないか」という疑念が湧く。声援に押されているかはともかく、鳴海は一切の躊躇なくしろがねを脱がそうとし、抱こうとしている。カチャ、と鳴海が自分のベルトを外しにかかっている音が聞こえた。押し付けられる、鳴海のジーンズの股間は内圧が高まっており、そんなモノを放り出されたらもはや収拾がつかない。


「しろがね、愛してる…」
耳元で囁かれゾクゾクしてしまう。人に見られながらの羞恥心に塗れたセックスってどんなだろう、なんて考えてしまい、頭が茹だった。膝頭を合わせる力がこもる。よくない傾向だ。
自制が利く自分が何とかせねばと譲歩してみせる。
「わ、分かった、分かったから!まずは部屋に戻りましょう、ね?」
「部屋?」
「私達の控え室っ、人が見てる前ではイヤ。続きは、私達の部屋に戻ってから、ね?」
とりあえずは鳴海をこの場から移動させることが最優先事項と判断する。
「そこなら、しても?」
「とにかく、ここはダメ!お願いよ、ナルミ…」
愛するしろがねの必死の嘆願。


「わかった」
「きゃあっ」
鳴海はしろがねを片腕で横抱きにして、すっく、と立ち上がり
「では、お先に失礼します。ご馳走さまでしたっ」
と、意気揚々と退室した。
「お、おろして、ナルミ、ナルミったら…んっ…ん…」
抱えたしろがねの顎を掬い、唇を吸いながらフラフラと進む。すれ違う団員達は誰も彼もギョッとして足を止めた。その中にはリーゼと涼子もいて、思わず後ずさった。
鳴海としろがねがあんまり人目を気にしないレベルでイチャコラする夫婦であることは周知の事実だけれど(本人たちは理性的に振舞っているつもり)、流石におおっぴらに抱き合い、寝室仕様の顔でディープキスを交わしながら歩き回ることはなかった。
しろがねは諦めの色が濃いが、鳴海に至っては捕食者の目だ。しんと静まり返っている中、獲物を腕に悠然と進む。
ノリヒロナオタも平馬も、団員達も、そんなふたりを呆然と見送ることしか出来なかった。



next
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索

PR
Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]