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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。






消えない悲しみも綻びもあなたといれば
それで良かったねと笑えるのがどんなに嬉しいか








アイネクライネ








「そんな甘っちょろいコト考えてるの?意外とアンタって夢見がちなのねえ」
「甘くねえだろ、大事だろ?おまえの方こそ訳分かんねえ」


涼子と平馬が言い争いをしながら大道具置き場へとやって来た。ポカポカ陽気に誘われて、表の下草の上でキグルミの修補をしていた鳴海は
「おいおい。何ケンカしてんだ、おまえら」
とすかさず間に入った。鳴海の傍らで、その作業を手伝いながら話し相手になっていたしろがねも丸い瞳を上げる。
「ケンカじゃないの。ちょっとした見解の相違があって」
ドスドスと地べたを踏み踏みやって来た涼子は、ちょっと聞いてくださいよ、とばかりにしろがねの隣に腰を下ろした。
「何の見解の相違だよ」
鳴海が作業の手を止めて訊ねると、その隣に胡坐を掻いた平馬が言うには。
食後に涼子が読んでいた雑誌の恋愛記事が、事の発端、らしい。


「恋愛記事…なんておまえ、読むんだ。あんま…ピンと来ねえなあ、キャラ的に」
鳴海が珍妙な動物を見るような目で涼子を見た。
「失礼ね、読むわよ」
涼子は即座に否定する。
「私だって花も恥じらう乙女だもん」
仲町サーカスに入った頃は小学生だった涼子も今や18歳。お年頃であることは認めるが、普段の言動に潜む勝気さ、というか、どことない男らしさというか、に『乙女』なイメージが噛み合わず、鳴海と平馬は同意を求めあうように視線を交わした。


まぁ、ね、と鳴海は言葉を飲む。
雑誌片手に茶をしばいてるリョーコはどっちかと言うと、ガテン系食堂で昼飯食い終わって漫画雑誌片手に時間を潰しているサラリーマンみたいなもんだ。
ちょっとガサツなんだよなあ、どこをどう間違えたんだか。
おまえはどうなんだよ読んでるところ見たことねえけどオレの知らんトコで読んだりしてんのかよ、と鳴海がしろがねを見遣ると、彼女は可笑しそうな含み笑いをして小首を傾げるだけだった。
「で?その雑誌の何で、意見が食い違ったわけよ」
「何のことはないの。雑誌の中の特集にあった…」


『パートナーに何を求めるか』


「…っていうので、意見が全く噛み合わなくて」
「この場合、恋愛相手でも結婚相手でも何でもいいんだけどさ」
はあ。
とワザと大きな溜め息をついて、鳴海は黙って作業に戻った。しろがねは、話題が鳴海にスルーされたのが面白かったようで、またクスクスと笑った。
「何よ」
「話の内容が青臭ぇ。こんなんで言い争う辺り、まだまだガキだな」
18歳になったってなあオマエラ、と大仰に肩を竦めてみせる。
「言い草ね。訊くから答えたのに」
「分ぁったよ。聞くよ、で、どうした」


「へーまが『愛が一番』、とか言うのよ?それさえあれば生きていけるって」
「何言ってんだ。それが一番大事だろ?お互いに、愛し愛され、その気持ちがあれば充分…」
「だから。一番はお金、だって言ってんでしょ」
きっぱり言い切る涼子には迷いがない。
「愛だけで生きてけないじゃない。どんなに綺麗事を言ったって愛じゃお腹が膨れない。金の切れ目は縁の切れ目。愛だってばっさりよ?恋愛だ結婚だって段階で、愛があるのは当然なの。プライスレスなの。そこに何の上積みがあるか、ってのが大事なんでしょうが」
「違ぇよ。愛情ありきって前提が間違ってんだよ。愛情がなきゃ苦楽も乗り越えられねぇだろ?金だけあってもつまんねぇよ」
「パートナーになった段階で愛があるんだから、それでいいじゃない」


どこまでも平行線。再燃した討論。いつまでも話は決着を見そうにない。
鳴海がまた呆れたような溜息を吐いた。
「意外とへーまってロマンチストだったんだな…。でもリョーコ、おまえはおまえで枯れてるぞ?若ぇのに現実的やしねぇか?」
「昔の仲町サーカスで貧乏は身に沁みてるもん。いーの!お金も愛も、ちゃんと手に入れて見せるから」
涼子は、べえ、と舌を突き出して笑った。涼子の彼氏である平馬は、非常に渋い顔をしているが。それもそうだろう、価値観が違うならお互いに歩み寄りが必要になる。相手が涼子では一筋縄ではいかなさそうだ。


「ガキだ青臭ェだ、人の意見に文句つけんなら、さぞかし大人の意見を聞かせてくれるんでしょうね、ナルミお・に・い・さ・ま」
涼子の指が鳴海の肩を突いた。
「へ?何でオレ」
いきなり話の矛先を自分に向けられて、鳴海は頓狂な声を出した。
「聞きたいわあ。紆余曲折を経て最愛の女性をゲットした、燻し銀の意見」
「はあ?」
「オレも聞いてみたいなァ、アニキの意見。社会勉強のために」
鳴海に向ける、平馬の目は純粋だ。
平馬は普段はどことなくスレて、アシハナ譲りで物事を捻って見がちなのに、どうしてか鳴海が絡むとなるとピュアになる。幾つになってもブラコン根性は抜けないらしい。
鳴海はしろがねを見た。
しろがねは鳴海の視線に気付くと「私も聞きたいわ」と瞳に漉いて、ふんわりと淡く笑った。
「はぁ…何で…」
こんな青い押し問答、全然気乗りがしない。
「早く言いなさいよ」
グダグダしていたら、今度はグーでド突かれた。


「ま、オレぁ…。相手に求めるモンは何もねぇや」
仕方なしの溜め息と一緒に答える。
「何にも?ってどういうこと?答えになってないじゃない」
「もっと好きになってくれ、とかそういうのもねぇの?」
「つうか…。相手に何かを求められるほど、自分は相手に何かを与えられてんのか。そっちが先の話だろ」
「いいじゃない。相手があっての話なんだもん。ギブアンドテイクで」
「見返りなんて求めるもんじゃねぇだろ。そもそも」
「ふうん…。死線を潜り抜けて来た男がずい分気弱なコト言うじゃない?」
「こればっかはオレがどうかは問題じゃねぇんだよ。相手の主観の問題だからな」


なるほど、と分かっているんだかいないんだか、平馬がポンと手を打った。
「何を納得しているのよ?上手いこと言い逃れられただけじゃない」
鳴海はハハと笑う。
「そのうち、見えてくるモンがあるってこった。相手に何かを求めているうちはまだまだ…」
「だったらいいわよ。求めるのが難だってなら、とことん求めてやるから」
「そこそこにしてくんない…?応えるのはオレじゃんか」
「私を愛しているなら覚悟決めなさいよ!」
「おまえなあ…言うのはカンタンなんだよ!」


若者同士の小競り合いに耳を傾けながら、傍らで揺れている花が気になった。
「強いて言やぁ…。隣で笑っててくれればそれで文句ねぇなぁ…」
ぽつり、とこぼす。
「何だ。求めるもんは『笑顔』なの?」
「まァな」
照れ隠しなのか、鳴海は細かな手作業に戻った。
その様子をじっと見つめるしろがねは
「ねえ、しろがねさんは?」
と呼ばれて、吃驚した顔を声の方へと向けた。


「私?」
「この流れでしろがねさんに話が振られない、なんてあるわけないでしょう?」
「そうね…。私の隣にいてくれること、かしら」
鳴海は自分の呼吸が、ふ、と一瞬止まっていたことに気付く。
「はあ…しろがねさんは欲がねぇんだなァ…」
平馬がしみじみ言った。
「それに引き換え…。おまえは…」
「う…」
明らかな差を比較され、涼子はちょっと言葉が詰った。
「ホントに他に何もないの、しろがねさん?」
「他、って?」
「こう…あるでしょう?貯金とか、持ち家とか、別荘とか、せめてお金で買えるくらいの幸せとか」
「止めろよ、生々しい」
「そういった甲斐性をナルミに求めてないわ、私」
「あ、のなあ…それはそれでちょっと…男としてどうかと…」
「うふふ。私が求めるのはそれだけよ?」
しろがねは銀糸を風に遊ばせ、微笑んだ。
「私が独りでいたくない時に、黙って傍にいてくれれば、それで」
しろがねの言葉を聞いた鳴海の口元から小さな音を立てて吐息が漏れた。








「しろがねは欲がねぇなァ…」
涼子と平馬が立ち去った後、鳴海はぼそりと言った。
「なあに?へーまさんと同じことを言うのね」
くす、と笑いながらしろがねは、キグルミの解れを縫う鳴海の手元がもっとよく見えるようにと、身体を寄せた。
「おまえはもうちっと、欲出していいんじゃねぇか?」
「そう?自分では酷く強欲だと思っているのに」
困ったような笑みを唇に上せる。


「もっと欲しいなら欲しいと言えよ。ま…先立つモノとの相談は必要になるが、おまえが言うならできるだけ…」
実は、鳴海もしろがねも、フウ・インダストリーの役員扱いで破格の年収を得ている身なのだが、その収入は全額、移動サーカスにかかる費用だけ抜いて、恵まれない子供向けに寄付してしまっている。自分達の日々の生活費は自分達で稼ぐことに決めているため、裕福、とは言い難い。
「私、充分求めているわ…?」
これ以上は重たく思われてしまうと、最後の最後で一歩引いているくらいなのに。
「それに…望みすぎたらきっと…後もう少しがあるくらいがちょうどいいのよ…」
だって、しろがねは今、胸が痛いくらいに幸せだから。
あんなに空っぽだった人生が嘘みたいだ。
「足りねぇなァ」
鳴海は首を振る。
こんな自分をまだ甘やかそうとしてくれる、鳴海にこの気持ちを伝えるにはどうしたらいいのだろう。


鳴海はキグルミをザクザク縫い進めながら
「…頼りねぇのは分かってんだ」
と苦笑う。
「それに比べて…おまえは何でもできるからなぁ」
「私は、あなたが思うよりずっと不甲斐ないのよ?」
「どこがだよ」
不意に、鳴海の手の上に、白い手が重ねられた。
細くて、思う様握ったら折れてしまう、綺麗な手。
鳴海は針と糸とを置くと、しろがねの手をそっと握った。指と指が絡み合う。


「いつも思う。オレはおまえに何かしてやれてるのか」
「…あなたは…私に出会って、私を見つけてくれたわ…」
しろがねは涼やかに甘やかに笑顔を見せる。
「あなたは私に笑うことを教えてくれた。あなたとこうしているだけで、私は安心できるのだから」
そう言って、しろがねは鳴海の胸に頭を寄せた。甘い香りがする。
「欲がねぇな」
「強欲よ、私は。ナルミ」
青空を映す銀の瞳は、キラキラと輝いて。


「私は死ぬまで、傍にいて欲しいのよ?先にいなくなるのなんて、私を独りぼっちにするのなんて、赦さないの。あなたの命を私に、寄越せって言ってるの」
しろがねの指が、機械の指に負けない力で折り曲げられる。
「強欲でしょう?」
しろがねは得意気にそう言うけれど
「へ…。やっぱり欲がねぇよ」
と答えるしかない。
だって、命なんかとっくの昔に賭けている。


「あなたの方が欲がないでしょう?求めるモノがないんだから」
「言ったろ。オレはおまえが、隣で笑ってりゃ、それでいいんだ」


求めるものは同じもの。
これからの幾星霜、自分の庭で綻ぶ大輪の花を咲かせてくれたら。
自分を宿り木に、美しい歌を歌い続けてくれたら。
「やっぱり欲がないわ、あなた」
「おまえもな」
くす、と笑い合って、ふたりは一緒に青い空を見上げる。


寄り添い、指を絡め、手を繋ぐ。
穏やかに、それだけで満足。








お願いいつまでもいつまでも超えられない夜を
超えようと手をつなぐこの日々が続きますように



End
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