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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。


 

 

 

 

 

 

動物園へ行こうよ。

みんなで行こうよ。

動物園はZOOってんだ。

さあ、行こう。

 

 

 

 

 

 

 

動物園へ行こうよ。

 

 

 

 

 

 

 

鳴海と勝が楽しそうに歌いながら前を歩く。その後ろを、お互いの想い人を微笑ましく見つめながら、しろがねとリーゼがついていく。

「リーゼさん、ごめんなさいね。本当はお坊ちゃまとふたりでデートしたかったでしょうに。私たちも一緒に来てしまって」

しろがねは申し訳なさそうにリーゼに謝った。

 

 

 

『来週、いっしょに動物園、行こうよ』

宇宙に旅立つ直前に勝がリーゼとした約束。

 

 

 

実際は、来週、には行けなかった。

 

 

 

何しろ、仲町サーカスのメンバーの怪我が癒えるのに一週間以上かかったし、彼らを置いたまま先に日本に帰ることなんかできなかったし、日本に戻って真っ先に向かったのは黒賀村だったし。

動物園だって飼育員さんたちがみんなゾナハ病にかかっていたわけで、その間、動物の世話などできるわけもなく動物園が通常営業に戻ったのだって、『来週』ではなかった。

 

 

 

そんなこんなでバタバタバタバタ……。

 

 

 

ようやく、リーゼと動物園に行く日が決まった頃、左腕をフウに移植してもらった鳴海がリハビリも終えて帰国してきた。その隣には鳴海にずっと付き添っていたしろがね。

鳴海と勝は嬉しくて嬉しくて、男同士で語り明かして、どういう話の流れかは知らないけれど動物園はダブルデート、ということにいつの間にかなっていた。

どうやら、鳴海はしろがねと普通に恋人がするようなデートをしたかったらしい。

ダブルデート、にも憧れていたらしい。

 

 

 

「本当にごめんなさい。ナルミはそういうことに鈍くて、気が利かなくて」

「いいんデスよ。大勢の方が楽しいデスし、勝サン、カトウサンと一緒でトテモ楽しソウ」

「そうですね。お坊ちゃまはナルミのことが大好きでしたから」

ようやく、普通に笑いながら遊べるようになったのだから。

こうして傍から見ているとふたりは本当に仲のいい兄弟にしか見えず、鳴海も勝もつい数ヶ月前まで自動人形を相手に、絶望と悲哀に満ちた戦いを繰り広げていたとは思えない。

片や無邪気な小学生、片や気の優しい大男。

「入園したら、私とナルミは別行動をとりますから、リーゼさんはお坊ちゃまと仲良くごゆっくり」

「ハ、ハイ…」

頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯くリーゼを見て、しろがねはにっこりと笑った。

 

 

 

ここはドラムを預けた動物園。だから鳴海たちと別れてふたりが一番最初に行ったのはライオン舎。それからふたり並んで色々な動物たちの前を通り過ぎる。リーゼがやってくると動物たちはみんな自然と彼女の前に寄ってきて、周りの人たちを吃驚させた。

子供たちは間近で動物を見ることができて大喜び。

「さすがは猛獣使いだね」

ふたりは顔を見合わせて苦笑する。

「今日のお弁当はしろがねサンと一緒に作ったんデスヨ。おにぎりは全部、私が握りマシタ」

「楽しみだね!おにぎりの中身は何?」

「梅とコンブとシャケ。シャケは私が焼いタんデスが……ちょっと焦がしテしまいマシタ」

秋晴れの真っ青な空の下、他愛ないおしゃべりをしながら、いっぱい笑って、のんびりお散歩。

ほんわかした空気をひきつれて。

手を握ったりはしないけれど、リーゼは勝といっしょでとても嬉しかった。

何よりも、勝は自分との約束を守ってくれたのだから。

 

 

 

ふたり分のソフトクリームを買って、リーゼが勝の待つベンチへと向かう途中、そのベンチの向こうに鳴海としろがねが通り過ぎた。ふたりは勝とリーゼには気づかず、純粋に自分たちのデートを楽しんでいるようだった。今日の青空のように晴れ晴れと笑う鳴海の傍らで、しろがねも秋バラが咲き綻ぶように笑っている。しろがねは鳴海の左腕に自分の腕を絡ませていたが、それは恋人の腕にしな垂れかかる、というよりはついたばかりの彼の腕が落ちないように、もげないように支えているように見えた。

大事に大事に、愛する人の腕を慈しむように。

リーゼはそんなふたりを心の底から羨ましく思った。

あんな風に、いつか勝となれたらいいな、と。

「勝サン…」

勝は、遠い瞳で鳴海としろがねを眺めていた。

リーゼの表情が少し曇る。

リーゼは知っていた。

勝はふたりを見ているのではなく、しろがねを見ているのだということに。

 

 

 

鳴海としろがねがふたりに気づき、大きく手を振った。

「あ、リーゼさん、おかえり。わ、美味しそうだね!」

手を振り返した勝はリーゼに気づいて笑顔を向けた。

いつも通りの勝の笑顔。リーゼも何事もなかったように笑顔を返す。

「ナルミ兄ちゃんもしろがねも楽しそうだったね」

「あんなに朗らかに笑ウおふたりっテ、何だか別人みたいデ慣れませんネ」

「うん、しろがねがあんな風に笑えるようになるなんてね…」

勝はまた遠い瞳をする。

まだ12歳なのに、何だかとても大人びた顔をする。

 

 

 

「でもね、僕、ナルミ兄ちゃんが無愛想だったっていうのがまだ信じられないよ。みんなが言うからそうだったんだろうけど僕の知ってる兄ちゃんは確かに怒りっぽかったけど、無愛想じゃなかったよ。どっちかと言えば感情表現の激しい人だった」

「サーカスにいタ頃のカトウサンは怖かったデスよ。無口で、無表情で。普通にお話ができタのは法安サンだけでシタ」

「法安さんか。法安さんには誰も敵わないよね」

勝が法安の口真似を披露して、ふたりはクスクス笑った。

「僕に笑顔でいろよって言ってくれた兄ちゃんが笑顔を忘れるくらいなんだから、兄ちゃんが経験したことってよっぽどだったんだと思う。しろがねを憎んでしまうくらいに…。ふたりはケンカばかりしてたけど、お互いに出会った頃から魅かれてたんだよ」

また。勝は遠い瞳をする。

リーゼは手の中のソフトクリームを見つめ、無意識に溜め息をついた。

 

 

 

「どうしたの、リーゼさん。溜め息なんかついて」

「え?あ…なんでも……ううん、勝サン」

「なあに?」

「勝サンは、しろがねサンが好きなのデショウ?」

リーゼの質問に、勝の顔色が変わり、表情が強張った。

「なんで…?」

「好きな人のことっテ、どうしてモ瞳で追っちゃいますヨネ。私も…そうですカラ、好きな人が誰を瞳で追っテいるのか分かりマス」

「リーゼさん……ごめん……」

リーゼは静かに首を振った。

「でもね、リーゼさんともっともっと仲良くなりたいって言ったのは嘘じゃないよ。僕の本心だよ」

「勝サン…」

「リーゼさんには白状するよ。僕、しろがねのこと、本当に好きだった。他人に言われるまで自分では気がつかなかったけど、後から分かったんだ。本当に好きだったんだな、って。好きだけど、しろがねにはナルミ兄ちゃんがいるから。ナルミ兄ちゃんしか、しろがねをあんな風な笑顔にすることはできないんだ。僕じゃ、とても無理。失恋決定なんだ。大丈夫、諦めはついてる」

 

 

 

今日の日差しはけっこう強くて、ソフトクリームは少しずつコーンの中で形をなくしていく。

「諦めはついているけれど……僕、失恋したばかりだから……。リーゼさん、だからもう少し、待っててね。僕、リーゼさん、大好きだよ。だから、待ってて欲しいんだ」

勝はソフトクリームを持っていない方の手でリーゼの手をぎゅっと握った。

「わわ、ソフトクリームが垂れてきちゃった」

勝は慌てて残りのコーンをほおばった。

待っててね。

時間がたてば、ソフトクリームが溶けていくように、僕の報われなかった初恋も消えて思い出に変わるから。

だから、それまで待っててね。

「…はい、待ってマス」

リーゼは切なさに少しホッとした気持ちが混ざった表情で、溶けかかったソフトクリームを舐めた。

 

 

 

「おーし、夕飯はオレが何でも奢ってやるぜ!何が喰いたい?」

「叙々苑の焼肉―――!」

「え?ちょっと待て、あそこって高級焼肉店じゃなかったっけ?」

「うん、有名じゃない?一度食べてみたかったんだ、僕」

「待てって…予算てもんが…」

「兄ちゃん、何でも奢るって言ったよ?」

「むうう、わあった!男に二言はねぇ!叙々苑で好きなだけ喰え!」

「やったあ!特選カルビー、特選ロース♪」

「肉の名前の前に『特選』つけんな。ふつーのにしろ、ふつーの」

 

 

 

動物園からの帰り道。

相変わらず仲良く犬のようにじゃれ合うふたりをしろがねは微笑ましそうに見つめている。

きれいで、スタイルがよくて、芸だって料理だって何だってできる、やさしくて、大人で、今ではとても笑顔の素敵な女性。

とてもじゃないケド、今の私は敵わナイ。

「リーゼさん」

しろがねに呼ばれてリーゼはハッと顔を上げた。

「ナ、何ですカ?」

「お坊ちゃまのこと、よろしくお願いしますね」

「はい?」

「もう、お坊ちゃまは私がお守りしなくても大丈夫なくらいお強くなられました。私の役目は終わりです。

これからはリーゼさんがずっと近くで見守っていてあげてくださいね」

「しろがねサン…」

「これからの私の家はナルミですから」

しろがねの笑顔は女の瞳から見ても内側から照り輝いている。鳴海への愛が溢れ出している。

 

 

 

しろがねも。

鳴海が仲町サーカスにいた頃、彼に憎まれ続けても拷問のような空気をずっと耐えて耐えて、信じて待ち続けたのだ。

いつ元に戻るとも分からぬ、鳴海の心を。鳴海の心が自分に向く日を。

鳴海を想う辛い日々が、きれいなしろがねをより一層美しくしたのだ。

そして、今、最も愛する人から身体中を愛で満たされる権利を勝ち得たのだ。

 

 

 

だから、私も。

勝サンが新しい一歩を踏み出す日を、一番近くで待ってイヨウ。

 

 

 

「まかせてくだサイ」

リーゼはしろがねと目を合わせてにっこり笑うと、ふたりでお互いの想い人の背中を見つめた。

 

 

 

End

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