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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディです。

 

 

 

 

 

 

しんしんと辺りの音を全て吸い込んで真白な雪が降りしきる。

窓の外は真っ暗で、町も人も眠りに就く時刻。

室内の温度もだんだんと下がってきた。 

 

 

 

 

しろがねは部屋の灯りを落としてベッドの中に滑り込んだ。

ベッドにはすでに先客がいて、その体温で布団の中は暖まっている。

とても暖かくて心地よい。

しろがねはその先客の身体に寄り添った。

「冷てぇな、おまえの身体」

鳴海はしろがねの身体をより近く引き寄せて、己の温もりを分けてやる。

「温かい、あなたの身体は」

いつもいつも、あなたはとても温かい。

ふたりは身体を寄せ合い、頬をくっつけて、静かな雪の歌に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

やさしい眠り。

 

 

 

 

 

 

 

 

しろがねは自分の髪をやさしく撫でる鳴海の手を握ると、その指にキスをして

その大きな手の平に頬を押し当てた。

「片腕だけでも、あなたに戻ってきて本当によかった」

「うん。おまえを直に感じることができる」

鳴海はその指でしろがねの頬を撫で、唇を軽く重ねた。

 

 

 

 

「私は、ずっとこうしたかったの。

寒い夜に自分で自分を抱き締めるように眠りに就くのではなく

あなたの温もりの中で眠りたかった、ずっと」

しろがねは鳴海の髪に顔をうずめた。

鳴海の匂いがする。濃いお日様の匂いがする。

「きっと、あなたと再会したのが冬だから」

ずっとずっと、あなたに触れたかったから。

あなたの温もりが欲しかったから。

「こうして、やさしいキスが欲しかった。あなたが仲町サーカスに来てからずっと願っていた」

「すまねぇ、あの時は…」

「もう言わないで。謝って欲しいわけじゃない」

仕方がないとはいえ、しろがねを惨く傷つけた事実に対し

鳴海は彼女に何度も謝らずにはいられない。

 

 

 

 

今はもう、鳴海自身、どうしてしろがねをあんなにまでも憎んでいたのか分からない。

こんなにも愛しい女のことを忘れることができたのか。

こんなにも愛しい女に惨い言葉を浴びせることができたのか。

こんなにも愛しい女の身体を傷つけることができたのか。

自分で自分のことが理解できない。

しろがねがどれだけ辛かったのかを考えると鳴海は憎悪で瞳を曇らせていた自分が許せない。

あの時は憎むことしか、自分に許されなかったのだとしても。

 

 

 

 

「いいの。あの時は私よりもずっとあなたが辛かったのだから。

私への憎悪はあなたが真っ直ぐで優しい心の持ち主であることの証明」

しろがねは笑った。

「今の私はとても幸せ。あなたが傍にいるだけでこんなにも幸せ。

一年前の自分に教えてあげたいくらい。大丈夫、もうすぐ幸せになれるわ、って」

自分の想いは必ず鳴海の元に届くから、と。

「うん。ごめんな…」

「もう、謝らないでいいと言うのに」

それでも鳴海はしろがねに謝らずにはいられない。

 

 

 

 

愛する男からこれ以上ないほどの憎悪を浴びせられ、しろがねの心は血を流した。

だからその分、今は、そしてこれからはしろがねを思いっきり幸せにする。

誰よりも幸せになるために加藤鳴海という男に出会い、愛されるために自分は生まれてきたのだ、と。

それまでの辛くて長い生涯も、愛した男に憎まれたことすらも、今のこの幸せを享受するために

必要なステップ、通過地点だったのだ、と。

『佳人薄命』という諺を我が身をもってこの世に具現していたような、

人よりも何倍も何十倍も淋しい人生だったのだから、これからは誰よりも幸せにしてやる。

そうしてやることが自分がしろがねにしてしまったことへの償いだと、鳴海は思う。

心から笑えるようになった彼女の笑顔が、この先ずっと絶えることのないように。

 

 

 

 

鳴海は何遍もやさしくキスをして、温かい言葉を彼女に与える。

「何度言っても言い足りない。おまえが好きだ。愛している」

言葉ってものは何て不十分なんだろう。

自分が伝えたいと思う気持ちのほんの僅かしか形にならない。

それでもしろがねはその言葉を身体中にじんわりと浸透させるかのように

鳴海からの愛の言葉の余韻に浸る。

「私も……あなたが……」

しろがねの言葉は続かない。

その先は甘い喘ぎ声に変わる。

 

 

 

 

しろがねはもう、眠りに就くときにひとりだった頃が思い出せない。

冷たい自分の腕で、凍えた自分の身体を抱き締めるように、

顔も知らぬ母の胎内に回帰するかの体位で独り寝をしていたあの頃が。

今は当たり前のように鳴海が隣にいる。

今では安らかな眠りの誘いに鳴海がいないことなど、ない。

鳴海の力強い腕に抱かれて、鳴海の広い胸に寄り添って、鳴海の笑顔に包まれて。

鳴海はいつもしろがねを絶頂の極みへと導いてくれる。

心も身体も、しろがねは鳴海を求めている。

そして鳴海もまた、しろがねを求める。

お互いの足りないところを補い合って、ふたりで完全な球体になる。

 

 

 

 

雪の歌う音以外は真っ白な雪に吸い込まれて

ふたりはこの世界にお互いの存在しか感じることができない。

ふたりの身体はひとつに繋がる。

ふたりの身体はすみずみまで満たされる。

もう、鳴海にとってはしろがねが、しろがねにとっては鳴海がいない世界など考えも及ばない。

もう、お互いと共有しない時間など想像もできない。

 

 

 

 

ふたりきりの世界。

ふたりきりの時間。

 

 

 

 

「まだ雪が降ってるな」

しろがねの返事がないので鳴海が傍らに目をやると

自分の左腕を枕にしたしろがねはウトウトとしている。

そんなしろがねに極上の微笑を捧げると、彼女の身体を抱き寄せた。

本当は彼女を自分の腕の輪で包んでやりたいけれど、自分の右腕は重たいから。

鳴海はしろがねの瞼にキスをして、自分もまた瞼をおろした。

「おやすみ」

「ん…」

ふたり一緒に温かいまどろみに落ちていく幸せ。

まどろみは、そのうちにやさしい深い眠りへと姿を変えた。

 

 

 

 

あなたが、おまえが、そこにいるだけでいい。

他には、何もいらない。

 

 

 

 

ふたりは温かくて、やさしい夢を見る。 

広くて深い眠りの海原にたゆたいながら。

 

 

 

 

End

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