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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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原作にそったパロディですが

藤田先生のツイッターでの後付け設定である
「鳴海と勝は二度と会わない」
「逆転治療により『しろがね』は徐々に人間に戻る」、
この2点を踏まえていないSS、

またはスピンアウト気味のSSです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴海はベッドに寝転がったまま滑らかに開いたり閉じたりする自分の右手をぼんやりと眺めていた。つい数時間前までのマリオネットの手とは違う、肌色の、誰が見ても作りものと気づかない手がそこにあった。頬に右手を当ててみるとほんのりと温かく、柔らかい。

右手の隣に自前の左手も並べてみる。左右を見比べてみても、同じような手相(微妙に違うのが凝ってやがる、と鳴海は思った)、柔らかに浮き上がる皺、見慣れた爪の形、とまるで本物と遜色がない。腕を曲げれば自然に人工筋肉が盛り上がる。鳴海が「力をこめようと」思えばもっと大きな力瘤だって作れる。

生身の腕と何ら変わらない見た目の、鳴海の新しい右腕。もう誰からも奇異の目で見られることもなくなるだろう(尤も鳴海は自分の手足を誰にどんな目で見られても少しも気にはならなかったのだけれど)。右腕だけじゃない。布団の下の両脚もフウ特製の新しい義足に付け替えられている。

 

 

鳴海は持ち上げていた両手を布団の上に落とした。手の平や指先に瞬時に伝わる布団の生地の目の感触や柔らかさ、その温度。これまでが如何に鈍感だったのかを痛いくらいに思い知らされる。

「しょーがねぇよ…あれは戦闘用のマリオネットの手足だったんだから」

多少なりとも感覚があっただけありがたかったんだから。

鳴海はふーっと大きな息をついて天井を見上げた。

と、視界に入るのは術後の目には痛いくらいにギラギラ輝くシャンデリア。辺りを見回すとロココ調の調度品で設えられた室内。鳴海の身体の上にかけられている布団は重さを一切感じない最高級羽毛布団。しかも薔薇柄。病衣すら総刺繍されたシルクのガウン(ややピンク色)。フウのラボに併設されている入院施設は病室というよりもかなり豪華なラブホテルのように鳴海には映る。

ここには鳴海に似合うものは何もない。

「しゅ、趣味悪ィぜ、ジジイ…」

部屋の中を見回していたら目がチカチカしてきたので今度は窓の外に目を遣った。室内装飾に負けず劣らず病室から臨む眺望もとんでもなく凝っている。緑なす山々、眼下に広がる澄んだ湖、手付かずの自然を装った完全に手の入れられた見せる景色。不自然に歩き回る、王子様を乗せてないのが可笑しいくらいの雪のような白馬。

どこもかしこも無駄に金がかかっている。それもこれも全てフウのポケットマネー。

「東山魁夷かよ…。これだから金の有り余ってるヤツぁ…」

鳴海は軽く苦笑した。

 

 

「ナルミ。具合はどう?」

花を生けた花瓶を抱えたしろがねが鳴海の個室にやってきた。

何と目に清清しい。しろがねが寛ぐ分にはこの派手派手な部屋も全く遜色がない。はっきり言って自分が異色なのだ。こんな自分にこんな部屋を宛がうのはフウの嫌がらせに違いない。

天蓋つきの瀟洒なベッドでピンクのシルクガウンを身に纏う鳴海にツッコミをいれなければ疑問も抱かない、その光景を可笑しいとも思わない人間は世界広しとはいえしろがねだけだろう。

勝がミッション中で不在なのをありがたく思う。

「ああ、麻酔もすっかり取れた。指もスムーズに動くぜ?ほら」

「まだ無理はしないでね。明日から微細調整するって話だから」

花瓶をローテーブルに置いたしろがねが鳴海の傍らの椅子に腰をかける。

「しろがね」

鳴海が「こっちゃこい」と手招きをする。しろがねは鳴海に誘われるまま身体を屈めて夫の唇をちょっぴり齧った。鳴海は愛妻の頬を新しい手で包む。ベッドが広すぎて腕を繋ぎ直したばかりの夫の負担になっては大変と、しろがねも靴を脱ぎ鳴海の隣にころんと横になる。鳴海は喜んで新しい手でしろがねの唇に触れたり、サラサラと髪を掬っては指の間からこぼしてみたりする。

「おお…すげー。こっちの手でも分かるぞ、いろんなことが」

しろがねが鳴海の右手に手を添える。

「ふふ…何だか変な感じ。温かくて柔らかくて、本物みたい」

「こっちと何が違う?」

鳴海は左手でもしろがねの頬を包んでみる。

「そうね、匂い、かしらね。新しい手にはまだ、あなたの匂いがないわ」

「匂いか。動物みてぇだな」

似たようなものよ、と笑うしろがねがちょっと色っぽかったので引き寄せて、鳴海は深いくちづけをしてみた。するとしろがねが身体をくねらせて反応したのでもっと抱き寄せて、右手を服の中に潜り込ませようとした。

「あ、ちょっと、ダメよ、ナルミ」

しろがねが慌てて身を離す。鳴海の唇が尖った。

「どーして。いいじゃんか。術前検査とか何とかでここ何日かご無沙汰なんだもんよ。オペも無事に終わったことだし、こっちの手、試してみてぇんだよ。もう平気だって」

「そういうことじゃないの」

しろがねは真っ赤な顔をしている。

「ここはフウのラボよ?絶対にカメラがあるわよ?」

「あ?」

「盗撮、されるわよ。絶対に」

「フウは分かってねぇなぁ」

「?何が?」

「盗撮するならこんなラブホテルみたいな部屋よりも、味気ない真っ白な病室、ってゆー非日常的な場所での濡れ場を盗撮した方がグッとくるのによ」

「そういう問題じゃ」

「オレはかまわねぇぞ?まぁ、おまえの裸を他のヤツに見せるのは嫌だから服を着たままで」

「私は服を着てても嫌!」

「じゃ、布団の中で」

鳴海は布団を持ち上げてみせる。

「だからそういう問題でもないでしょ?布団の中でも嫌」

「えー?」

「えー?、じゃないでしょ」

鳴海は新しい手でしろがねのあちこちをさすさすと触る。

「感度の上がった新しい手でおまえのあちこちを触ってみたかったんだけどなぁ」

「それは…ここを出てからゆっくり、ね」

「ちぇ」

「そのときはいくらでも付き合ってあげるから」

「どんなことでも?」

「どんなことでも」

「その言葉、忘れんなよ?」

「うん」

「なら、しゃーねぇなぁ」

鳴海はきゅっとしろがねを抱き締めた。

 

 

「仲良ししているところ申し訳ないがね、おふたりさん」

入り口からニヤニヤとしたフウの声がした。更に赤い顔になったしろがねがパッと鳴海のベッドから飛び降りた。

「ノックくれぇしろよ、マナーがなってねぇなぁ」

「すまないね」

全然すまなさそうな顔をしてないじゃないの。しろがねは忙しなく靴に足を突っ込みながら呟いた。

「術後の経過は問題なさそうだね、ナルミ君」

「おう。ちっとも違和感ねぇぜ」

鳴海はフウに突き出した手をワキワキと動かしてみせる。フウが顎をしゃくると後ろに控えていたメイド人形が大きなワゴンを鳴海から見えるところに押してきた。上に掛かっている布をはぐとそこにはマリオネットの腕が1本と脚2本が並べられていた。

鳴海の目元が少しだけ歪む。それは「自分の手足だった」。過去形になってしまった。しろがねはそんな鳴海をそっと見つめた。

「こーやって並べられてると……ついちょっと前まで動いてたってことが信じられないよな」

ともに戦い抜いた、思いのこもった大事な手足。今はもう「タダのモノ」だ。

「本当によく決断したわね」

サハラの仲間の忘れ形見であるマリオネットの手足を外すことを。しろがねは鳴海の右手をぎゅっと握った。この新しい手はしろがねの温かさも柔らかさも滑らかさも、与えられた圧力も即座にはっきりと知覚できる。

「『しろがね』の仲間が最期にオレに託した想いを取り違えていたオレだから、皆の形見である手足を未練がましくつけたままだったんだけど」

もうあんな風に戦う日はもう来ないから。

「皆の魂をゆっくり眠らせてやる潮時なんだ。今まで本当にありがとう、って」

「ナルミ…」

もう戦う手足は自分に必要ないと、ようやくそう思えるようになった。

「それにオレはモニターだからな。フウの試作した義手や義足をオレがつけてデータをとって、それで得た技術が地雷やなんかで手足を失った子どもたちに還元されるとあっちゃあな。いつまでも感傷にばっか浸ってもいられねぇ」

よりよい義手や義足の開発のために、使いやすく、頑丈で、見た目も生身同然の、そして安価で量産できる義手・義足の開発のためにモニターになってはくれないか、フウの申し出が鳴海の背中を後押ししたことは言うまでもない。手足両方、しかも多少の無理や乱暴にも耐えられる頑健な身体を持つ鳴海はモニターにはうってつけなのだ。

「いいヤツ開発しろよな、フウ。子どもらのためならオレはいくらでも手足の取替えっこをするからよ」

「ククク…本当にいいモニターだね、君は」

フウが軽く手を上げるとメイド人形が車椅子を出入り口に向けた。

「この手足はクリーニングして大事に保管しておくから」

「ああ、頼む」

フウに続いてかつての鳴海の手足もまた部屋を出て行く。

「今までありがとう。どうか安らかに」

戦友にそっと労いの言葉をかける鳴海の手をしろがねはやさしく握り締めた。病室の扉が完全に閉まったのを見届けるとしろがねはもう一度靴を脱ぎ、鳴海の隣に横になる。鳴海を撫でて感傷的になった心を癒してあげるつもりで。

鳴海の右手が胸に触れた。けれどしろがねは拒まずに鳴海の愛撫を受け入れる。

「は…」

「しろがね…」

鳴海の舌がしろがねの耳朶を濡らした。右手が乳房を押し包んでいく。

「それから」

唐突な声にふたりはガバッと頭を起こした。いつの間にかフウが引き返してきていた。そして

「この部屋にはカメラもマイクも仕掛けてないからね。何にも気兼ねすることはないから心置きなく何でもどうぞ」

との一言とニヤリ笑いを残して去っていった。

 

 

「さ、最低…。そんなこと言われてできるはずないでしょう?ね、ナルミ」

「できたら騎乗位で」

「嫌っ!」

 

 

 

 

End

 

 

postscript    原作最終回の6年後の段階では鳴海はまだマリオネットの手足をつけています。私的にはキリのいいところで鳴海には取り替えてもらいたいんです。確かにあの手足には色んな思いが詰まっているとは思いますが、アレはあくまで「戦う手足」であり鳴海が生きていくために必要なのは「愛する手足」ですからね。それ以外に手足が他にはないというのならいいのですが、フウの特製のがありますから。あのマリオネットの手足をつけている間は何だか鳴海の気持ちが今ひとつ未来に向ききれてないので。

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