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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。

 

 

 

 

 

 

 

金曜日の子どもは恋をする。

 

さいごの子ども しろがね

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、勝。……勝?」

母親の挨拶なんか耳に届かない。

勝は昨日の鳴海と同じ呆けた表情で口からエクトプラズムをでろりと吐き出しながらランドセルを床に引き摺り引き摺り、這い蹲るようにして階段を上った。

「鳴海の病気が伝染ったのね。きっと」

少しも心配をしない、ふたりの性格に慣れっこの母。

 

 

 

ぼふん。勝はベッドに身を投げた。勝は蒼い顔で呆然としている。

帰る道々、勝は少しずつ冷静になると、自分がやっちまった失敗に気づき始めた。

 

 

 

僕は逆ギレしちゃったんだ。リーゼさんに。

確かに今日のリーゼさんは分からず屋だったけど、僕は怒鳴ることなんてなかったんだ。

それに……例え、リーゼさんがナルミ兄ちゃんのことが好きだっていいじゃないか。

僕がリーゼさんを好きなんだから。

やっぱり、もっと早くに僕の気持ちをきちんと言葉で伝えておくべきだったんだ。

僕は一番リーゼさんが好きだよ、って。

僕のことをリーゼさんがただの仲のいいお友達だと思っていても。

リーゼさんと学校帰りに公園で少しでもお話ができればそれでよかったんだ。

でも、僕は『もう行かない』と言ってしまった。

きっとリーゼさんも、もう来ないだろう。

それどころか、僕のことを嫌いになったに違いない。

逆ギレする男なんてサイテーだって思われちゃったよ、きっと!!!!

 

 

 

「ごはんよ―――!食べないの?ふたりとも―――?!」

母親の言葉にふたりの返事は帰って来ない。

「いらないんだって。今日は食い扶持が減ったわね。そうじゃないかと思ってスキヤキにしてよかった!」

「じゃあ、今夜は肉を堪能できるな。いただきます!」

息子たちの悩み事なんて取るに足らないと知っている両親。

階下から漂ういい匂いにグラリとそそられながらも、お年頃の子どもたちは胸を痛くする甘く苦しい気持ちでお腹がいっぱいなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、鳴海は部の大会当日なのでどうしようもなく、仕方なく、食事もとらず、フラフラする足取りで出かけていった。

口からエクトプラズムはまだ出ていた。

勝は鳴海が家を出かけたのには気づいていたが、それからだいぶして起きてきた。何とかリビングに下りてきたものの、喉の渇きを潤した後はソファに撃沈し、パジャマのまま放心状態でのびていた。

テレビをぼうっと眺めているけれど、脳みそは動いていない。

 

 

 

リーゼさんに謝らなきゃ。

そればかりが頭の中をグルグル回る。

でも、勇気が出ない。

電話して、または直接会いに行って、「勝サンなんて大嫌イ。顔も見たくナイ!」なんて言われたらどうしよう。

考えただけで体がガタガタ震えてしまう。

 

 

 

「勝。お客さんよ」

リーゼさんかも!勝はガバッと跳ね起きた。

「勝。アンタもなかなか隅に置けないわね」

母親がにやりと笑う。とても鳴海に似ているその笑い方。

リーゼさんなら、こんなパジャマで出て行けない。顔も髪の毛もちゃんとしなくちゃ!

「ちょっと、待ってもらって!」

勝はダッシュで自分の部屋へと駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで身支度を整えて、ついでに呼吸も整えて、玄関にやってくると。

そこにいたのはリーゼではなく、意外にも鳴海の想い人、しろがねだった。

「し、しろがねさん…」

リーゼでなくてがっかりした、という気持ちよりも、なんでしろがねさんが?という気持ちの方が大きかった。

それにしても、またしても、何てタイミングの悪い人だろう。だって、今日も鳴海は留守だ。

それともタイミングが悪いのは自分の兄、鳴海の方か?

しろがねは勝の目を、あの銀色の瞳で勝がたじろいでしまうくらい真っ直ぐに見つめると

「勝さんにお話があるんです」

と切り出した。

「あの…どうぞ、上がって…」

「ここでいいです。すぐにすみますから」

しろがねは薄く笑った。

 

 

 

「あのね、勝さん。リーゼにあなたのお兄さんのこと訊いてくるようにお願いしたのは私なんです」

「え?」

しろがねは頬を染めて俯いた。て、コトは何?しろがねさんって、まさか…。

「だから、リーゼは私のためにあなたにいろいろとあなたのお兄さんのことを訊いていたの。リーゼが訊きたくて訊いていたのではないのです。だから、誤解しないでやって欲しい」

しろがねのその言葉で、勝は自分の胸に刺さっていた小さな棘がぽろっと抜けたのが分かった。

「リーゼは友達の家で素敵な男の子に会ったって…その子が偶然ぶつかってきてまたお話できたって…喜んでいました。だから、その子のお兄さんのこと、訊いてきて、そうしたら話すきっかけになるでしょう、って私がお願いしたのです。でも、私がお願いしたということは恥ずかしいから勝さんには言わないでと…」

勝がどこかで聞いた話と同じだ。

「リーゼが泣いているの。あなたに嫌われてしまったと…ヤキモチなんて焼く、嫌な子だと思われたって、泣いています。どうか、仲直りして、慰めてあげて欲しい。この通り。みんな、私がいけないのですから」

しろがねは勝に向かって深々と頭を下げた。

「しろがねさん、頭をあげてよ。分かった。今からリーゼさんの家に行くよ」

しろがねは顔を上げると「ありがとうございます」と言って、にっこりと笑った。

 

 

 

「しろがねさんは、ナルミ兄ちゃんのことが好きなの?」

勝の言葉にしろがねは肩まで真っ赤になる。

「一目惚れ…です。おかしいでしょう?大人なのに」

そう言って、鳴海を想いながら微笑むしろがねは勝の目から見てもきれいだった。

鳴海が見たら嬉しさのあまり卒倒するだろう。『理想が高い』と言った鳴海の言葉は今ならなるほどな、と本当に鵜呑みにできる。

「今、兄ちゃん」

「い、いいんです!私はこれで!」

しろがねは慌てて両手で押し留める仕草をした。

「どうして?」

「リーゼが言うには……勝さんは一度も、私のこと訊いてこなかったと言ってました。もしも、お兄さんが私に何らかの興味があれば、あなたの口を通して何か訊こうとするでしょう?私がリーゼに頼んだように。……でも、それがないってことは興味がないってことだから…。困らせたくないですから…」

しろがねは淋しそうな顔をする。

 

 

 

ごめんなさい。勝は心の中で謝った。

僕が。僕がちゃんと兄ちゃんのお願い通りにしていたら、こんなにややこしいことにならなかったんだ。

兄ちゃんとしろがねさんは初めから両想いだったんだから、ふたりにこんな辛そうな顔をさせなくてすんだんだ。

僕もリーゼさんとケンカして悩むこともなかったんだ。

リーゼさんにもヤキモチを焼かせたりしなくてすんだんだ。

リーゼさんは僕のこと、そんなに好きでいてくれたんだ……。

なのに僕は彼女を泣かせてしまったんだ。

 

 

 

「私はふたりが仲直りしてくれればそれでいいのです。それじゃ失礼します」

ぺこっと頭を下げて、背中を向けるしろがねを

「あ!ちょっと待って!」

と、勝は急いで呼び止めた。

「はい?」

しろがねは怪訝そうに振り向く。

「あの…あのね。兄ちゃん、今日、大学の部活の大会なんだ。しろがねさん、今から行ってあげてよ!」

しろがねは小首を傾げる。

「兄ちゃんね、一昨日、しろがねさんが他の男の人を肩を組んで歩いてるの見かけたって…それですごい落ち込んでて、食事も喉に通らなくて腑抜けになってたから、もしかしたら、もう負けちゃってるかもしれないけど…」

「リシャールのことだろうか?あれは単にゼミ友達で…確かに私の身体に触れたがる傾向はある。でもいつもすぐに止めさせるけれど…」

「じゃあ、兄ちゃんはしろがねさんが止めさせたところは見なかったんだ」

見た途端に勘違いして、泣きながら走り去ったのだろう。

しろがねは膝を突いて、勝と視線を合わせた。

「場所はどこですか?」

しろがねの瞳は潤んだようにキラキラしてて、とてもキレイで。

ああ、これで、きっと何もかもがうまくいく、そんな予感が勝の脳裏をよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

玄関から出てきたリーゼはウサギのようだった。

真っ赤な目が、昨日一晩、どれだけ泣いて泣いて涙を流したかを物語っていた。

「……コンニチハ」

リーゼがおずおずと挨拶を返した。

「あのね、今、僕んちにしろがねさんが来たよ。全部、自分が悪いんだって謝ってた。僕も、ごめんね。リーゼさんにひどいこと言ったね。泣かせてごめん」

勝の言葉にリーゼの顔色がぱああっと輝く。

「私も…ヤキモチなんか焼いてゴメンナサイ…」

勝もリーゼも謝って、瞳を合わせてにこっと笑った。

これですっかり仲直り。

「今ね、しろがねさんはナルミ兄ちゃんのところに行ったよ。兄ちゃんもしろがねさんに一目惚れしてたから、きっと驚くと思う」

「そうだっタんデスカ?」

「兄ちゃんにね、ずっとしろがねさんのことをリーゼさんに訊けってせっつかれてたんだけど、僕、いつも訊くの忘れちゃったんだ。リーゼさんと話をするのが好きだったから……リーゼさんの話を聞くのが好きだったから……」

リーゼは「好き」という言葉を聞いて、頬をピンクにした。

「僕ね、リーゼさんのこと大好きだよ。これからはもっともっと仲良くしようね」

勝の言葉に、リーゼはぽろっと涙を零す。今度のは嬉し涙。

「な、泣かないで」

と、オロオロする勝。

「私も、勝サンが大好きデス」

リーゼは涙で光る顔でにっこりと微笑んだ。

幼くて可愛い、恋愛の始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおい、鳴海、しゃんとしろよ!」

「決勝だぞ?分かってんのか?」

鳴海にとっては、仲間の激励の声なんておおよそどうでもよくて。

早く家に帰ってフテ寝してぇなぁ……なんて、鳴海はぼんやり考えていた。

「今日はいつものおまえらしくねーぞ?何そんなにゲッソリしてんだよ?」

「2連覇かかってるって自覚してんのか、おまえ?」

精彩はないし、覇気はないし、格下の相手の攻撃をまともに受けるわ、相手を仕留めるのにイライラするほど時間がかかるわ、初めて優勢勝ちなるものをするわで、鳴海自身、ほとほとイヤになっていた。

何でオレ、こんなことしてんのか、わっかんねーなぁ……。

それでも決勝まで勝ち残っているあたりが流石と言おうか。

 

 

 

「決勝の相手は、前回、一年のあいつに秒殺されたのをかなり根に持っているって話だぞ?」

「今日の鳴海の様子じゃ、きっと嬲り殺されるな…」

仲間の心配を他所に、鳴海はただただボ――っとしている。

決勝の場に立った大男ふたりはお互いに礼をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう勝つとか負けるとかどーでもいーなぁ。

だって、しろがねさんには彼氏がいるんだぜ?

それ以外のことなんて、ホントにもうどーでもいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノロノロと顔を上げて、鳴海はハッとした。

殺気のこもった対戦相手の山のような身体越しに何かキラリと光る銀色が鳴海の視界に入ったのだ。

何何何何何何?!

「初め!」

邪魔だ、おまえで見えねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負は2秒で着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてここにしろがねがいるのか、そこで何をしているか、鳴海にはさっぱり分からなかったけれど鳴海は礼もそこそこに祝福しようと出迎える仲間たちとは反対方向に駆け出した。

もちろん、しろがねに向かって。

しろがねは何とか決勝戦に間に合った。

勝にはああ言われたものの、まだ不安な気持ちで鳴海の試合を見ていたしろがねは試合後顔を輝かせながら自分のところにやってくる鳴海を見て自分の心配は杞憂だったと確信した。

「優勝おめでとうございます。強いんですね」

しろがねは最高の笑顔で鳴海を労った。

「オレは、ちっとも強くなんか…」

猛者を何の気なしにノックアウトできるおまえの方がずっと強ぇよ。

そう考えながら、鳴海もまた極上の笑顔でしろがねに応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー!母さん、メシまだ残ってる?」

朝と打って変わって、ご機嫌な鳴海が帰ってきた。

(酒の苦手な鳴海は部の祝勝会を一次会のみで切り上げてきた模様)

「お帰り、兄ちゃん。試合どうだった?」

玄関で靴を脱ぐ鳴海のもとに勝がやってきた。

「おう、優勝したぜ。2連覇だ」

鳴海がにかっと笑う。

「マサル、さんきゅな」

鳴海の笑顔で勝は万事が上手く行ったことを悟った。

「どうしたしまして。よかったね、兄ちゃん」

なでり。鳴海の大きな手の平が勝の頭をくりくりと撫でて、勝もにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから。

 

 

 

 

 

 

鳴海は外食が多くなった。明日はお休み、なんて日は外泊も頻繁になった。

誰と一緒に過ごしているのかなんて、改めて言うまでもない。

勝の目から見ても、最近の鳴海はちょっとしっかりして、内面が大人っぽくなったと思う。いつも起巻き寝巻きだったのに、おしゃれ、にも気を遣うようになったのがおかしい。それにあんまり、勝のことを殴らなくなり、これまでにもまして笑顔がちな男になった。

 

 

 

とある日曜日。

鳴海は一昨日から家に帰ってきていない。

勝はこれからデートに出かけるところ。

リーゼと動物園に行くのだ。

鳴海としろがねのような大人の恋愛にも興味はあるけど、小学生の勝にはまだまだ先の話。

とりあえずは、ファーストキスはいつになるのかなぁ、というのが勝の最大関心事。

「おはよう、リーゼさん!」

お手製のお弁当を下げたリーゼの元に駆け出して、「それ持ってあげるよ」なんて男らしいところをアピールして、仲良く並んで歩き出した。

隣を歩くのは僕の彼女。とってもとっても、心がくすぐったい。

「今日は晴れてよかったね!」

勝はさりげなくリーゼの手を握って、リーゼは心なしか顔の赤い、「早く身長を伸ばさなくちゃ」と真剣に考えている勝を見つめて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あちらにも、こちらにも、幸せと笑顔の恋の花。

 

 

 

End 

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