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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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鳴海の軽井沢生還ベースのパラレルです。



通り雨  (前)
 

 

 

 

 

 

 

ざんざんと大粒の雨が瀧のように空から落ちてくる。

黒い雲が地面すれすれに低く垂れ込めていたから、いつ降るかいつ降るかと覚悟はしていたけれど、それでも降り出すのをあと5分待ってくれたら、と思わずにはいられない。

 

 

 

 

しろがねと鳴海は、近所の公園の中にある遊具の階段の下で雨宿りをしていた。

サーカスの買出しから戻る途中、今にも降り出しそうだからと急いだのも空しく、とうとう公園の只中で大雨につかまってしまったのだ。見通しのいい公園には雨を凌げるところは少なく、ふたりはようやく少し窪んで屋根のようになっているこの場所に駆け込んだ。

 「通り雨だからしばらくここで雨宿りをすればそのうちに止むだろう」

サーカスのトラックまではあとほんのちょっとの距離なのだが、大量の買出し荷物を抱えてこれ以上大雨に打たれることは考えただけでもうんざりだ。

 「あ―、ちょこっと降られただけでびしょ濡れだぜ」

 うへー、気持ち悪ぃ。

鳴海はそう言って、濡れて体に張り付くTシャツを脱いだ。

ぎゅっと絞るとじたじたと水が滴る。

 「しろがね、おまえも」

 濡れて気持ち悪いだろう。

Tシャツをパンパンとはたきながらそう言い掛けた鳴海の言葉はしろがねに目を遣った途端、尻切れトンボになってしまった。思わずTシャツをはたく手も止まる。

 

 

 

 

ただでさえぴったりとしたしろがねのTシャツは雨に濡れて、余すところなく彼女の体に張り付き如何に彼女の身体の造形が見事であるかを鳴海に訴えていた。しろがねが今日身につけているブラジャーの色やデザインまでも鳴海に情報提供している。

鳴海は…目のやり場に困ってしまった。

正直、嬉しいのだけれども。

 

 

 

 

この雨宿り場所は狭い。

しろがねはともかく、無駄に縦にも横にもでかい鳴海にとってはかなり窮屈だ。
頭はつきそうだし、身体の右側は壁に接触しているし、左側はやたら身体のラインを強調したしろがねがひたっと寄り添っているし、下に視線を向ければしろがねの美脚が剥き出しになっているし(腿の付け根でジーンズを切断したような際どい短パンを穿いているため)、だから鳴海は雨に白く煙る、代わり映えのしない目前のおもしろおかしくもない景色を仏頂面で睨むことしかできないでいた。

 

 

 

 

「どうした、カトウ?機嫌が悪そうだな?」

急に無口になって表情も険しくなった鳴海にしろがねが声をかける。

「あ―…、いや、何でもねぇ」

「言いたいことがあるなら言えばいい。気になるだろう?」

鳴海はしろがねを一瞥し、すぐに視線を雨の向こうに戻した。

「…目のやり場に困っているんだがな…」

「?どうして?」

「どうしてって……おまえ、男の前で下着が透けてて恥ずかしくねぇのかよ?

そんな扇情的なカッコしてっと男に襲われても文句言えねぇぞ?!」

何でオレの方が赤くなんなきゃいけねぇんだよ?

しかもしろがねは小首を傾げて、『男って誰のこと?』みたいな顔をしている。

そもそも、しろがねに男扱いをされていない気は普段からうすうすしていたが

こうまであからさまにされると流石の鳴海も傷ついた。

 

 

 

 

だいぶ時間が経ってからしろがねが言う。

「もしかして、男…ってあなたのことか?」

「おまえ、さらっとひでぇこと言うなぁ」

「仕方ないだろう。ピンとこなかったのだから」

しろがねは真面目な顔で言い返す。

ここまではっきり言われると、自分が自分で気の毒になる。

「なんでピンとこねぇんだよ?」 

「傍にいて、あなたを危険だと思ったことは一度もない」

「……」

それって気になる女に言われて、イイコト?ワルイコト?

しろがねにしてみれば、紛れもない事実を言葉にしただけのことなのだが

鳴海にしてみればどうにも引っ掛かる。

 

 

 

 

「あなたは私に何もアピールしないだろう?ノリさんやヒロさんやナオタさんや…
これまで私に近寄ってきた人たちは何らかの分かりやすい“アピール”をしてくる。そうすれば『この人たちは男として女の私をどうにかしたいのだな』と私にも理解できる。だからと言って、それでどうこうなるものでもないが。それに襲われても私は負ける気がしない」

「そりゃそうだろうよ。おまえはそんじょそこらの男じゃ勝てねぇくらいに強ぇからな。

じゃあ、オレはおまえに好きだ何だと言ったりやったりしねぇから、“男”としてピンとこなかったってか?」

「…どうでもいいから、何にもしないのだろう…?」

しろがねの声色がいくぶん低くなったことに鳴海は気がつかない。

「いいか?そういう理屈以前にオレも男なの!ちったあ、恥らって見せやがれ!」

そう言いながらも、相変わらず前方を見据えたままで、身体もできるだけしろがねに触れないようにしている鳴海に何の危険があるものか、としろがねは思った。

人の気も知らないで!

 

 

 

 

「分かった…。でも、あなたが私にとって安全であることには変わりが無いだろう?」

しろがねの言葉に鳴海はカチンときた。

鳴海もしろがねに対し負けじと、人の気も知らねぇで!、と毒づいた。

「ほほお。オレは常に安全パイなわけだ。おまえにとって」

「そうだな。例えば、あなたが私にキスをしようとするなんて、想像もできない。

あなたにとってもありえないだろう、カトウ?」

しろがねは半ば自嘲気味に言ったのだが、鳴海はそれを自分に対する挑発と受け止めた。

「なめやがって。やったろうじゃねぇか」

 

 

 

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