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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。







命短し、

恋せよ

益荒男!

(九)


布団の上で向かい合って、も変なので、ふたり並んで壁にもたれながらの会話となった。
「これを買いに出ていたの?」
鳴海からもらったスポーツ飲料で喉を潤しながら、しろがねは小声で訊ねた。
「これはついで。女の子連中を駅まで送ってったんだよ。残った野郎は皆つぶれてて使いモンにならねぇからな」
オレはホラ、酒飲めねぇからよー、それに帰る道中ヤツラに何かあっても事だしよー、と鳴海も小声で返し、ペットボトルの中身を一口含む。


やさしいわね。
しろがねは思う。
鳴海がゼミの女の子たちに人気があることはしろがねも知っている。
そんなことをあなたにされたら、皆、勘違いしてしまうのではないのかしら?
何でそんなにやさしいのだろうか?
送っていった女の子の中に本当にカトウの好きな娘がいたりするのだろうか?
さっき鳴海の不在を知ったときに胸の中に広がった邪推がまた頭を擡げた。
胸の中がキリキリと痛む。


「いつも、送っていくの?」
「うん、帰る時間が夜遅くのときは。オレは家に彼女以外の女は泊めないことにしているからな、まあ、今は彼女いないけどよ」
好きなヤツはすぐ隣にいるんだけど、それは心の中で呟いた。
「まー、変な噂になっても嫌だから、女の子たちには終電前に必ず帰ってもらってる」
本当は誰か女を家に泊めた、という情報がしろがねの耳に入ることが嫌だったから、しろがねを好きだと気付いた日に鳴海が自分で決めたルールだった。
そしてそれを鳴海は頑なに守っている。
ケンカばかりのしろがねに、さらに遠ざかってもらいたくなかったから。


「じゃ、じゃあ、ごめんなさい!私も帰らないと…!」
しろがねが弾かれたように立ち上がろうとしたので、鳴海はとっさにその手首をつかんだ。
つかんで吃驚した。なんて細い手首だろう?
「……いーよ、おまえは……」
初めて触れたしろがねを、鳴海は名残惜しそうに放す。
「で、でも…変な噂になったら困るのでしょう?だったら…」
「だから、いいんだって」
しろがねと噂になるのなら本望だ。例えそれが事実無根でも。
そんなデマなら大金を叩いて買ったっていい。ホモでネコのデマとは訳も質も違う。
「それにもう、終電の時間も過ぎてる」
しろがねは元の位置に戻った。鳴海の手につかまれた箇所が熱く火照る。


「ごめんなさい。飲みつぶれる、なんて真似したから…迷惑をかけて…」
「気にすんなよな。でも、おまえって酒強かったんじゃなかったっけ?」
何度かあったゼミ全体の飲み会でも、鳴海はしろがねが酔っ払ったところは見たことがない。
チラチラと盗み見ていると、彼女はけっこうくいくいと杯を空けているようだったのに。
しろがねは鳴海に自分がワインしか合わない旨を伝えた。
「ばっかだなあ。言えばいいのに何遠慮してんだよ?いつものおまえらしくねぇなあ」
鳴海は呆れた顔をする。
「いっつもオレに『大きなお世話』って言われることをケンカ腰にポンポン言ってくるくせに」
「ご、ごめんなさい…!」
しろがねが途端にしゅんとしてしまったので、鳴海は慌てて
「ああ、気にすんな。オレも今の、意地悪で言ったわけじゃねぇんだ」
と付け足した。


「オレは飲めないのを無理して飲むことなかったのに、って言いたかっただけで……すまねぇな、オレ、口の利き方乱暴だから、それでいつもケンカになってたんだよな。悪かった」
鳴海が頭を下げた。
「違う!悪いのは私。最初に……きっと生意気な態度を私がとったせいだから」
お互いに謝りあう状況に、鳴海は嬉しそうにニッと笑う。
「マジ、良かったぜ。こんな風におまえと話せる日が来るなんて思ってなかったからよ」
「私も。ずっとあのままなのかと思ってた」
「何であんなにケンカばっかりだったんだろーな」
「本当に」
少し沈黙が流れて、ふたりはペットボトルを呷った。





「どうして…」
「はい?」
「どうして急に、仲直り、しようと思ったんだ?オレ、おまえが言い出さなかったらきっと、オレの方からは謝れなかったと思う」
「……」
好きだから、あなたのことが好きだと気がついたから、そう答えていいものか、しろがねは悩んだ。
ちょっと間を置いて、
「何となく、ケンカしているの、くたびれたから…」
と結局、何番目かの理由を告げることでお茶を濁した。
「そっか」
鳴海はその答えで納得したようだ。
「それにしてもよー、よくオレがリシャールに片恋してる、なんて考え付いたもんだよなー」
鳴海は思い出し笑いをしている。しろがねは穴があったら入りたい気持ちが俄かにぶり返してきた。


「ご、ごめんなさい!謝るから、もうそれは言わないで!」
「それにおまえを睨んでるなんてよ」
「だって、本当に睨まれているように感じたのだもの」
「うん。睨んでたよ」
「え?」
「おまえを、じゃねぇけどな」
「それって、どういう…」
「分かんなきゃ、いいよ」


しろがねは怪訝そうな顔で鳴海を見上げる。
少し小首を傾げるように、柔らかい視線で、やさしく眉を顰めて。
折ることの容易そうな細くて長い首の下に、淡い灯りの元に大きな陰影を作る胸。
オレンジ色の豆電球の光で染められて、しろがねの唇はいつもよりずっと紅く見える。
美味しそうな唇。
キス、してぇな。
鳴海の脳裏にそんな欲求が過った。
もうそれは、ずっとずーっと前からの、鳴海の中に渦巻く願望。
毎晩、しろがねを相手にイメージトレーニングに励んでいる彼はやろうと思えばスムーズに事を運べる自信があった。
胸の中が何かの感情ではち切れそうになる。
心臓がドクドクと激しく勢いよく、身体中に血液を送る。
そしてはち切れそうなのは胸だけじゃなくて。
心臓の送った血液はある一点に集中的に送られているようで。
うわ、これじゃいかん!
鳴海は慌てて立ち上がった。


「そんじゃ、オレは向こうに戻るから。おまえもゆっくり寝ろよ」
鳴海はしろがねに背中を向けて襖に手をかける。
突然、会話を一方的に打ち切ろうとする鳴海にしろがねは戸惑った。
「そんな……もう少し、話がしたいのに……私何か、気に障ることした?」
追いすがるようなしろがねの口調に襖の取っ手にかかる鳴海の手の力が抜ける。
「いや、そんなんじゃねぇよ」
このままだとおまえを食べてしまいそうだから、などと言えるはずがない。
「だったら…。私…そう、あなたに料理、美味しかったってまだ言ってないし、そのことでもっと話したいし…それから…」
しろがねは黙った。
黙って、思い直した。
「あんなにおもてなしの料理をたくさん作ったのだものね。ホストだし、くたびれているわよね……わがまま言ってごめんなさい」
追いすがるのを止めた。
せっかく仲直りできたのに、聞き分けのない女と思われても嫌だった。
「また、今度ね。また……そうね、もういつでも話せるのだもの。…おやすみなさい」
鳴海がチラッと振り返ると、しろがねはきれいに微笑んでいた。いつもいつも怒ったような顔ばかり鳴海に見せていたしろがねの笑顔。初めて鳴海の見たしろがねの笑顔。
それはすごく、ものすごく綺麗で。
それがとても、嬉しくて。


だから、鳴海はもう堪え切れなくて、
気がついたときにはしろがねを力一杯抱き締めていた。


「はあ……オレもう……これ以上はのっぴきならなくなっちまいそうで、おまえから逃げたかったんだ」
「カトウ…」
しろがねの頬に鳴海の長い髪がかかる。
思いも寄らず、鳴海に包み込まれるように抱き締められて、しろがねは夢をみているのだと思った。
酔って眠っている自分が見ている、あんまりにも願いすぎて見ている、幸せで儚い夢。
「すまねぇ。オレはやっとおまえと仲直りできただけだってのに…。おまえがあんまり可愛いからよ…」
しろがねは耳を疑った。鳴海が初めて自分を褒めてくれたのだ。それも『可愛い』、と。
「……嘘……いつも、可愛くねぇって、言ってたでしょ…」
「それは売り言葉に買い言葉、ってヤツだから。オレ、本気でおまえを可愛くねぇなんて思ったことなんてねぇよ」
「嘘」
「いんや、嘘なんかつかねぇって」
「本当に…?」
「うん」
「本当に?私のこと、嫌いじゃない?」
「うん、どっちかってゆーとすごく好きだ。ずっと前から」
「本当に?」
「うん」
しろがねの身体がビリビリと痺れ、眦に熱いものが滲む。


しろがねは鳴海の背中に両手を回してぎゅっとしがみつくと、甘えるようにその大きくて温かい身体にその柔らかい身体を摺り寄せた。
「し、しろがね?」
「私もね、ずっと前からあなたが好きだったの。それに気がついたのは最近だけど……でも、ずっと好きだったの…」
ネコのように額を擦り付けて、鳴海に愛を告白するしろがねの声は鳴海が別人じゃないかと思うくらいにとんでもなく甘くって。
「じゃあ、オレがこうして抱き締めていても、嫌じゃねぇんだな?」
込み上げてくる大きくて熱い塊を、鳴海は何度も呑み込んだが、それは段々と難しくなってきたようだ。
「嫌じゃない」
鳴海はさらに強く抱き締めた。
「だから、ここんとこ顔が赤かったのか?」
「どうしてもあなたと二人きりになると、上手く表情を作れなくて…」
鳴海はしろがねの頬に手の平を宛がって、その顔を自分の方へ向かせると
「作らなくていいって。その顔がすげぇ可愛いんだから」
そう言って笑った。
恥らうようなしろがねの顔。
オレンジ色の灯りのせいでよく分からないけれど、きっと今も真っ赤な顔をしているんだろう。
可愛い可愛い、オレのしろがね。
だから鳴海はこのセリフをようやく言えた。


「オレと付き合うか?大事にしてやるぞ?」
またしろがねは泣きそうな顔をした。否、もうすでに泣いているのかもしれない。
しろがねが小さく頷いたので、鳴海は彼女の唇をやんわりと吸った。
しろがねの唇は鳴海の日々のイメトレ以上にとても柔らかい。
鳴海が舌先で唇をなぞるとしろがねはそうっと薄く唇を開いた。
その薄い隙間から鳴海の舌は忍び込み、ふわりと彼女の舌を絡め取るとゆっくりとやさしく、それでいて濃厚に愛撫を与える。
しろがねのくぐもった甘い声が吐息とともに漏れ、鳴海の腕の中でびくびくと震えた。
鳴海の武骨な指が意外にもとても繊細にしろがねの肌に触れ、掠めていく。
長い睫毛に触れ、冷たい頬に触れ、柔らかい耳朶に触れ、その白くて滑らかな首筋を滑る。
鳴海の指が新しい場所に触れるたびにしろがねの身体の中を甘い痺れが駆け抜けて、腰や背中から力を奪っていく。
鳴海の大きな手の平が、その大きさに負けていないしろがねの胸を包もうとした時、鳴海はしろがねと唇を離した。
ふたりの間に引いた唾液の糸がつうっと光り、細くなって切れた。


「今日はもう……ここまでにしとこう」
鳴海はしろがねの首筋に顔を埋めるようにして抱き直した。
胸と胸をぴたっと合わせているので、しろがねに鳴海の力強い鼓動が響く。ドクドクともうすごい速さで音を刻んでいる。
「これ以上はもう、止められなくなっちまうからな…今日は…他の奴らも泊まってるしよ…」
「私は誰がいてもかまわない。あなたのしたいようにして欲しい」
鳴海の身体が揺れた。
「オレのしたいことってアレだぞ?誰かが起きたら…」
「それでもいい。私は…あなたが欲しいと言うのなら…」
しろがねの、こんな積極的なお誘いを血気盛んな若者に断れるはずがどこにあろうか?
「そんじゃ……声だけは出すなよ……?」
「はい」
鳴海はその力強い腕でしろがねを万年床に横たえると、再び唇を重ねた。
ふたりの行為は静謐だけれど、熱烈に、濃厚に。


しろがねは漏れる声を抑えるのに必死で、痛みを堪えるのに無我夢中で、
怒涛のように過ぎた時間内に何をして何をされたのか後で思い返してもよく覚えてなかったけれど、
とてもとても幸せだったことだけは心と身体が覚えていて、
それだけで充分満足できたのだった。


犬猿の仲の蟠りは、もうどこにもなくなっていた。












「だからどうしてレジュメをきちんと作ってこないのだ?!」
「うっせーなぁ。拳法部の大会が近いんで練習が忙しいんだよ!」





銀目銀髪のものすごい美人と筋肉隆々とした大男がものすごい剣幕で舌戦を繰り広げる。
年度が替わり、最近入室してきたばかりの新ゼミ生はゼミ終了後にいきなり始まった大喧嘩に開いた口が塞がらない。
「部活を優先するのは本末転倒だと何べんも言っているだろう?」
「しょーがねーだろ。ホント、忙しいんだよ」
「私は新しいゼミ長として、入ってきたばかりのゼミ生に恥ずかしいレジュメを発表してもらいたくない!」
「だったらオレは拳法部の新主将なんだよ!部員の手前、中途半端なこたぁできねぇんだよ!」
「カトウ、あなたのレジュメが一番中途半端だ!」


新ゼミ生の勝は近くにいる鳴海としろがねの同期に
「あのふたり、いつもああなんですか?」
と訊ねた。
「去年、入室してからずっとだよ。ゼミの後のケンカはまあ、オレらにとってはレクみたいなもんだな」
「うちの名物。犬猿の仲」
「ホント、仲悪いよなー」
「でも、どっちも他のヤツとは上手くやってんだぜ?ありていに言って人気者って部類」
「そうなんですか」


勝たち新ゼミ生がこの恒例のケンカを目にするのは2度目だが慣れるのには後数回の見物が必要だ。勝が再度、ふたりのケンカに目を向けたとき、鳴海の口から
「ああ、もう結構。可愛くねぇ女と口利くのくたびれた」
の発言が飛び出した。
途端、しろがねは口を噤み、ギッと鳴海を一睨みしたかと思うと、怒ったようにゼミ室を出て行った。
それを合図に3年のゼミ生は「さあて、帰るかぁ」と帰り支度を始める。
2年生はまだぽかんとしたまま。
当の鳴海もしろがねの背中を見送ると、鼻歌を歌いながらのんびりと帰り支度に勤しんだ。





「お先ー」
「おう、お疲れー」
ゼミ室にいるのが自分ひとりだけになると、鳴海は窓からの景色を見遣りながらゆっくりと100まで数えた。窓からは青空と、それに向かって手を伸ばす木々の濃い緑の葉っぱが見える。
「……きゅーじゅはーち、きゅーじゅきゅ、ひゃーく、っと」
数え終わると椅子から立ち上がり、カバンを肩に掛けて悠々とゼミ室を後にした。
ちょうど下行きのエレベーターが口を開いたがそれには乗らずに、その隣の階段へと向かう。鳴海が数段飛ばしに階段を下りていくと、途中の踊り場で銀色の髪の新ゼミ長が待ち伏せをしていた。
しろがねを見つけた鳴海の足取りは次第にノロくなり、わざとゆっくりと彼女の前に立つ。
しろがねの表情はさっき鳴海とケンカしていたときとは別人のようで、どこか泣きそうな、甘えたそうな、拗ねているような、そしてその色は赤い。
「どうした?」
鳴海の一言が合図になったかのように、しろがねは鳴海の胸元にしがみ付いた。
「ナルミ……あなたが可愛くないって言ったから…」
鳴海の服を掴むしろがねの手にきゅっと力がこもる。





昨年の11月、鳴海の家での飲み会のあった夜、鳴海としろがねは晴れて恋人同士の関係に昇格した。しろがねは『カトウ』から『ナルミ』と、愛しい男の呼び名を変えた。
鳴海は別にふたりの関係がおおっぴらになることに抵抗はなかった。
むしろ、公認の仲になった方がしろがねの周りに悪い虫が寄らなくなるからいいかも、と思っていた。
しろがねもそれでいいんだろうと思っていた。
ところが、その付き合いだして初めてのゼミ終了後、しろがねはこれまで通りの顔で(鳴海とふたりきりのときに見せる可愛い顔ではなくて、『犬猿の仲』の顔で)鳴海に文句を言ってきた。
鳴海はかなり吃驚したけれど、すぐに理解した。
ああ、こいつは誰か他のヤツのいる前ではあの甘えた態度は取れないのだ、と。
あの甘えた顔は『オレ限定』なんだ、そう思うとしろがねが可愛くて仕方がない。
だから、鳴海は『しろがねに合わせてケンカに付き合った』。
最後にお決まりの『可愛くねぇ』もくっつけて。
可愛くないなんて欠片も思っちゃいないけど。


だけど、しろがねはケンカの後は必ずこうして落ち込むようになった。
そしていつもこの踊り場で鳴海が来るのを待っている。
しろがねはもうケンカなんてしなくてもいいと分かっているのにのに、どうしてか皆の前では恥ずかしくて鳴海の前で取るような顔や態度は見せられなかった。実際、外でも取ってしまったらとんでもなく歯止めが利かなさそうで、いきなりケンカしなくなってもきっと周りから勘ぐられる、どうしようどうしようと思っているうちに、しろがねはこれまで通りの『犬猿の仲』を演技していた。
彼女的には仕方のないこととはいえ、鳴海とケンカするのは本意ではない。
鳴海がフリで付き合ってくれているのだ、ということも分かっているつもりだけれど、本気になっていたらどうしよう、と考えてしまって怖いのだ。(だったら演技をやめればいいのに、それもできない不器用なしろがね。)それに決まって「可愛くねぇ」と鳴海が言うのにも困惑していた。





「可愛くねぇなんて嘘だって言ってるだろ?」
「でも、今日は2回も言った」
ミスキャンパスを2連覇もしているのに、どうしてこうも自分に自信がもてないのかね。
でもこんなしろがねが可愛くて、この顔と態度をさせたくてわざと「可愛くねぇ」と言っている鳴海がいる。とろけるように甘えてくる、『あなたが大好き』という気持ちを隠そうとしない、このしろがねに大学の中で会いたくて。
鳴海はしろがねの髪に手を梳き入れる。さわさわともどかしく這い進む感触にしろがねの喉がびくっとのけぞる。
その上向いた唇に、鳴海は自分のを重ねた。
しばし、恋人同士に戻った後、
「今日、おまえんち行ってもいいか?」
と鳴海は小声で訊ねた。
しろがねは頬を薔薇色に染めてこくんと頷く。
「午後練が終わったら真っ直ぐ行くから」
「わかった」
「そんじゃ、オレ先に行くぜ?」
鳴海は腕の中の愛しい存在をもう一度ぎゅっと抱き締めると耳元に
「おまえは可愛いから心配すんな」
と囁いて耳朶を甘噛みし、先に階段を降り、表へと出た。


今日は快晴。雲ひとつない空の色に夏の気配を感じる。
鳴海は歩きながらうううん、と伸びをした。
これから学食に行って朝昼兼用の飯を食べて、その後部室でちょっとだべって、午後練をやって、その後はしろがねの家に直行。しろがねとのお楽しみの甘い時間が待っている。今日はそのまま泊まるつもり。
「何だかオレ、ここんとこ充実してるよな」
降り注ぐ太陽の光と同じくらいにピカピカした気分で、鳴海は大股に大学の中を歩いていった。





恋する益荒男の話は、これにて終了。



End
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