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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。






命短し、

恋せよ

益荒男!





(一)


「んじゃあ、個人演武の二人目はおまえで決定な、鳴海」
「了解っス」


タイトルの書体以上に暑苦しい男たちが数人、学食で角を突き合わせて何やら話し合っている。
彼らが座ると椅子が子どもの椅子のよう。
むーん、むーんと、その周辺だけ妙に湿度が高く、酸素濃度が薄く感じられる。
そこにいるだけでものすごい圧迫感。
揃いも揃って、どいつもこいつもデカイ、ゴツイ、人相も強面。
傍から見れば、まるで悪巧みをしているようだが、彼らが話し合っているのは間近に迫る学祭についてだ。
非常に健全すぎるくらいに健全。


「おーし!これでほぼ片付いたな。後は例年通り」
「うぃーす」


彼らは拳法部の部員たち。
拳法部は学祭で毎年、焼き鳥屋をやることが恒例となっている。
大昔のOBに本職の焼き鳥屋がいて、そこから頂戴する秘伝のタレと鶏肉のおかげで毎回好評なのだ。
それとは別に学内の格闘技系の部が合同で行う演武会。
これは3日間の学祭中、2日目に行われる。
いろいろな格闘技の乱取りやら型やらが大講堂で披露されるわけだが、これがなかなか勇壮でけっこう客の入りがいいのだ。
その個人演武を鳴海が行うことになった。
鳴海は去年に引き続き、2度目だ。


「オレらも純粋に楽しんで学祭に参加できるのも今年が最後だしなあ」
「来年は4年だもんなあ」
「就職活動かぁ…めんどくせーなぁ…」
学祭は3年が主導する。その3年生組が感慨深そうに呟く。
鳴海は2年なので、どちらかというとまだ使われる立場だ。
つつながなく楽しめますようにと言いながら、いつの間にか話は仲間内の女関係の茶化しあいに変わっていた。


「そういえばさあ、鳴海ってホントのところミンシアとどうなんだよ?」
先輩のひとりが話を鳴海にふった。
ミンシア、は拳法部の同学年のマネージャーだ。
女子の拳法部がなかったため、マネージャーとして自らも一緒に汗を流す紅一点。
「どうって……言われても……どうもこうもないっス」
「だって付き合ってんだろ?」
同期が言う。
ぶふっ!
と、鳴海は飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「付き合ってねぇよ!どっから流れたんだ、そんな根も葉もねぇウワサ!」
だってなあ。皆して顔を見合す。
「ミンシア、おまえを追っかけてわざわざ中国から留学してきたんだろ?」
ミンシアは鳴海が親の都合で中国に暮らしていたときに習っていた、拳法の師父の娘だ。
「たまたまだろ?日本で勉強したいって前っから言ってたしよ」
「おまえは鈍いからなぁ…」
ミンシアが鳴海に秋波を送っているのは誰の目から見ても明らかなのだ。
本人だけが気づいていない。


「だったら鳴海、おまえ、好きなヤツいんの?」
「1年のときの彼女の話以来、おまえって浮ついた話聞かねーよなあ」
「好きなヤツ…っスか…」
鳴海は何気なく、学食のあちこちに貼られた学祭のポスターに目をやった。
様々な種類のポスターの中、『ミスコン応募締め切り迫る!*自薦他薦は問いません』に目が止まる。
鳴海の視線につられた隣の部員が
「ミスコンかあ…」
と呟いた。
途端、話はミスコンに移り、一気に花が咲いたので鳴海はホッとした。


「今年もしろがねさんで決まりっしょ」
「去年ダントツだったもんな」
「他の追随を許さない、ってあーゆーことだよな」
「でも、今年はエントリーするのゴネてるらしいぜ。去年は友達に勝手にエントリーされて、しぶしぶ出たって話だし」
「しろがねさん出なきゃ、意味ねーじゃん。彼女抜きでミスになったって有名無実だぜ?」
「しろがねさんの出ないミスコンで優勝してもかえって恥だよなあ」
「だから本部が泣き落としかけてるらしい」
「そりゃそーだ」


鳴海はミスコン話にまったく乗ってこない。
「鳴海ってさ、しろがねさんに全然興味ねぇの?しろがねさんの話の輪に入ってきたことねぇよな」
「むう…」
「だって、おまえ、しろがねさんとゼミ同じだろ?」
「マジ?オレ、すげーウラヤマシイ!」
「なのに、何で?しろがねさんの話してくれよ?彼女、ゼミでどんな?」
しろがね話になると、どうしてこうも、どいつもこいつも目の色を変えるんだ?
鳴海が黙っていると
「おまえってさあ……もしかして女に興味ないの?ホモ?」
と爆弾が飛んできた。


「『さぶ』系?」
「げ……兄貴ィ!、ってヤツ?で、おまえはタチ?ネコ?」
「想像したくねぇ…」
「うわ、そうなの、おまえ?オレはその趣味ないぞ。言っとくけど」
「オレもパス」
「オレも」
「オレも」
「オレも」
「オレも」
以下、数人同。
揃いも揃って引いている。
珍しい生き物を見るような目で鳴海を見上げている。


「ホモじゃねぇ!おいそれとそーゆーこと言うな!また変なウワサが流れちまうだろが!」
「でも、ミンシアにもしろがねさんにも興味がないとなるとなあ」
鳴海はガタリ、と席を立つ。
「もおいい!用が済んだならオレはもう帰るっス。バイトなんで!」
カバンを引っつかむと鳴海はその場を大股で歩き去った。

「怒ったな、あいつ」
「図星だったんスかね…」
残された部員たちはヒソヒソ声で囁きあった。





学食の入っている建物の外に出ると先程の勢いはどこへやら、鳴海の足は急に歩みがノロくなった。
肩を落としてトボトボと。
溜め息なんてものも勝手に出てしまう。
通り道の掲示板に貼られたミスコンのポスターに再び視線を投げた。
『昨年度優勝・才賀しろがね』の文字と一緒に彼女の顔写真が載っている。
その脇に後付けのビラが貼ってあって、『持ち帰り厳禁!』と書いてあった。
鳴海は足を止めて、昨年度のミスキャンパスの顔をじっと見つめた。





興味がないだと?
とんでもない。
こんなにも惚れちまってるってのに!





鳴海が仲間うちのしろがね話にのらないのは、彼女のことを口にした途端に歯止めが利かなくなりそうで怖いからだ。
想いが堰を切って溢れ出しそうで怖いのだ。
普段は多弁な鳴海も、自分の本気な恋愛のことに関しては寡黙になる。誰にも言わない。
『泣かぬ蛍が身を焦がす』、のタイプ。
自分の大事な気持ちを茶化されたくないのだ(他人のことはいくらでも茶化すクセに)。
だけどそれ以上に誰かにそれを言って、それがしろがね本人の耳に入ってしまうことが何よりも嫌だったのだ。


もう一度、しろがねの写真を見た。にこりともしない、つまらなさそうな表情。
顔に『早く終われ』と書いてある。
昨年は一度も笑顔を見せることもなく、親しげな発言をすることもなかったのに彼女はダントツで優勝したのだ。
鳴海はくくっと笑った。
このポスターに自分の写真を貼ることも彼女はごねたと聞く。
「あいつらしーや」
鳴海は少し笑った後、眉の間に深い皺を寄せると、またトボトボと歩き出した。


歩きながら、鳴海はこの半年間をぼんやりと思い返していた。





postscript
この話はリクエストにお応えしてお送りします。黒珈琲サイドに 『Silemt Movie』 というSSがありまして、その話の鳴海としろがねの馴れ初め話を、とリクエストを頂戴しました。年齢制限に引っ掛かって向こうにいけない方のために簡単に説明しますと、元の話の鳴海としろがねはその実、濃いいHをする関係なのに、傍から見ると犬猿の仲で通っていて、ふたりが付き合っていることに誰も気づいてない、そんなあらすじです。リクエストしてくださった方のご希望に添えるかどうかは別として、この話も書いててとても楽しいです。大学生設定の話が多いなあ、と思ったら、本来大学に通う年齢ですもんね、ふたりとも。



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