『ポッキーゲーム』

『Re'mind』　サイトオープン1周年記念フリリク。
Thanks! illustrated by るいさん。（Re'mind）

オマケSSあり〼。

『じょいふる』




「食うか？食うなら一袋やるよ」
と差し出された赤い箱。しろがねはそれをチラリと見て手を上げて『No,thank you.』の意思表示をした。
「私は甘いものはあんまり」
「そうか？美味いけどな、ポッキー」
「あなたは甘党だからな」
鳴海はそれはもう美味しそうに次から次へと食べている。鳴海の周りに漂うチョコレートの甘い匂い。甘いものは得意ではないしろがねですら、ちょこっとだったら食べてもいいかな、という気分にさせる。
「一袋はいらないけれど、じゃあ一本だけ」
「ん。ひょっほまっへろ」
鳴海は食べかけを唇に挟んだまま箱から一本引き抜こうとした。でもしろがねは
「私はこれでいい」
そう言って相手の胸元に両手をかけて　　　　まるで猫がしなやかに背伸びをするかのように　　　　擦り寄り、鳴海の咥えているポッキーに齧りついた。
ポリポリと軽快な音を響かせる毎にゆっくりと近づいてくるしろがねの顔。
時に艶めかしく長い睫毛を伏せ、時に挑戦的にも思える銀色の瞳でターゲットをロックする。
何気なく、でも目まぐるしく変化する表情は、まさに猫の瞳。平静を保つのは至難の業！
今置かれている状況がキスの途中と勘違いしてしまいそうなくらいに、しろがねの首が傾いた。だから、反射的に鳴海の首も若干しろがねとは逆方向に傾いて……思わず不覚にも
『もうこのまま、しろがねごと残りのポッキー食っちまうか』
なんて考えが脳裏に浮かんでしまったけれど、実行に移す前に根性無しのポッキーはパキリと折れた。
「ごちそうさま」
「そりゃ…どうも」
このシチュに身動ぎひとつしないで、顔色ひとつ変えないでいられたのは、日々の精神鍛錬の賜物だろう。
しろがねの突然のいたずらサプライズに動揺してみせなかったから、鳴海は自分が優位であると信じて疑わない。しろがねは絶対に慌てふためく自分を期待していたはずなのだ。
思い通りの反応がなくてさぞかし悔しがっているだろう、『お生憎様』の一言でもくれてやろうかという鳴海だったが、これまた鳴海の予想に反し、しろがねは
「楽しかった」
と、くすり、と笑ってみせた。その笑顔がまたきれいだったものだから……鳴海は精神鍛錬の賜物もどこへやらかなり間抜けな顔をさらしてしまった。慌てて顔を引き締める。
「何が楽しかった、だよ。美味しかった、だろが、こういう場合」
「ふふ。食べられるの、残っているといいな」
しろがねに手の中を指差され、「何のこと…？」と箱の中を覗いてみた。
……箱は緊張して力み過ぎた大男に握り潰されてて、ポッキーはどれも無残に粉々にされていた。
そして鳴海の狼狽はしろがねにすっかりと見抜かれていた。優位に立ってると思ってたのに、実際は優位に立たれてて、それが何だか悔しくて恥ずかしくて鳴海の唇は尖り頬は膨らんでしまう。けれど、そんな顔をしろがねに見せるのも癪で。
「ちぇ、こんなでも食えらぁ」
鳴海は大きく開けた口に箱の中身を全部ザラザラとぶちまけてモシャモシャと食べて、膨れた頬を誤魔化した。



end



postscript
ごちそうさま、そしてお粗末様でした（汗）。
るいさんのフリリク、もちろん鳴しろでお願いいたしました。この企画が告知されたときがポッキーの日の一か月くらい前で、ついついね（汗）。るいさんの鳴しろ、なんて可愛い……そしてなんて初々しい。
ご覧の通り、ポッキーを迎えにいってるのはしろがねの方です。鳴海が「やろーぜー」って誘ってる、というよりはしろがねから向かっていってる（笑）。お描きになったるいさんも仰ってましたけど、何て挑戦的なしろがね！（るいさんは女の子至上主義！）
何て言うかこう…絵師様毎のふたりのパワーバランスが見て取れていいよねー、新鮮！積極的なしろがねって絶対に可愛いと思う。ネコみたいで。そんで鳴海のことを思いっきり翻弄してくれるといい。小悪魔上等！
お礼（？）にオマケSSをつけさせていただきました（いやむしろ邪魔か…）。後書き、というか設定説明を先にしておきます。
というのも例えば、原作終了後のふたりがポッキーゲームをしたら目も当てられないイチャコラ状態に陥るのは想像に難くないわけでね、しろがねが挑戦的も積極的も何もなくなっちゃう（苦笑）。なのでまぁ原作パラレル（鳴海軽井沢生還ベース）を念頭に置きながらいっちょよろしくお願いします。タイトルは…ポッキーって言ったら今はコレでしょう（笑。2010年現在）。