心臓の目覚める時

Thanks! illustrated by ちささん。

オマケSSあり〼。

『心臓の目覚める時』




オレは『しろがね』で人形を破壊する者。
おまえは人形の生まれ変わりでオレに破壊されるべき物。


人形の生まれ変わりって物はもっと人形みたいな物だとばかり思っていた。サハラのテントのど真ん中に、偉そうに鎮座しやがっていた偽物のフランシーヌ人形みてぇによ。
きれいなツラをしていても笑えもしねぇ、人間の皮を被っていても所詮は人形。生気のないガラス玉のような瞳が人間を欺き、冷ややかに世界の終末を見つめる。命を神から与えられた訳でもないのに動いて呼吸をする、忌まわしい存在。
破壊することも、憎悪することも、侮蔑することも非常に容易い。
筈だった。


おまえは人形なんだろう？
だのに何故、このオレの目に「人間」に見えんだよ？
オレはおまえを壊す者だぞ？
人形のくせに。
人形のくせに、涙も流れないくせに、
泣きそうなツラなんかすんなよ。
人形のくせに、感情もないくせに、
オレに何を訴えることがあるってんだ？
人形のくせに、心も無いくせに、
オレの言葉で傷ついたフリをするのは止せ！
人形のくせに。
笑えないくせに。
何をそんなに必死になってやがる。


「人間」のように振舞うのは止めやがれ。
オレはおまえにゾナハ病の止め方を訊き出しに来た。
オレはおまえを破壊しに来た。
オレはおまえを憎悪する。
オレの信念の中の、固い芯を揺さぶるようなことをするな。
オレの心の底辺をざわつかせてオレの記憶を呼び起こすのを止めろ。
そんな瞳でオレを見るな。


冷たい眠りについたオレの心臓が目を覚まそうとしている。


おまえを見ていると、オレとおまえ、どっちが「人間」なのか分からなくなる。
人間に生まれ変わった人形と、半分機械になった人間。
生身の温かい人形と、血の通わない四肢を持つ人間。
人間らしい表情を作る人形と、人間らしい感情を封印した人間。


オレの方が人間じゃねぇのかも、そんな気にもなる。
不安になる。戸惑いが生まれる。


冷たい作り物の腕で温かな借り物の身体を抱き締めたら
戸惑いの答えは見えるのか？
そんな余計なことは考えたくねぇんだ。


だから。
おまえは人形らしくしててくれよ。
オレは「人形を壊しに来た」んだ。
「人間を殺しに来た」んじゃねぇんだ。
オレに、オレは間違っているんじゃねぇのか、なんて思わせないでくれ。


頼むから。



End


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もう、鳴海が色っぽ過ぎる…。
何べんも言いますが、悩む鳴海が見たかった！
恋愛なんか理解も出来なさそうだった初期鳴海が、様々の経験を経て成長して自分の巨大な絶望の中に小さく灯る愛情の欠片を持て余して苦悩する。責任・義務・使命と本音、憎悪と愛情に板ばさみになる鳴海なんて考えただけでゾクゾク身震いする。
こんなに男の色気を振りまけるシチュもなかったろうに！