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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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舞台設定、人物設定、その他もろもろ完全創作です。




◆人物紹介◆

才賀エレオノール
県下一の私立高校に通う、重たいバックボーン一切無しのJK一年生(15)。両親と兄との4人暮らし。生真面目で才色兼備で運動神経もいい、傍から見たら欠点が見つけられない。でも、女子力が必要とされる系行動に器用さが全く発揮されないのが悩み。隣人の鳴海が自分をどう位置付けているのかが皆目見当が付かないのも悩み。

加藤鳴海
才賀家の隣に住む社会人。エレオノールより10歳年上の25歳。父親・祖父は他界、母親は父親が中国で興した会社を継いで中国在住、本人も小さい頃から中国その他の外国と日本を行ったり来たり、大学入学を機に帰国。デリカシーのない脳筋イノシシ。手先の器用さまで運動神経でまかなう男。今は家業を手伝い東京支社勤務。JKになって急激に綺麗になったエレオノールに悪い虫が付きそうなのが悩み。



***********










素直にあやまること出来ます。











(1)


「あ…あれ?やっぱり一目足りない…?また直すの…?嘘…どこから…」
エレオノールはげんなりした顔で編み目を辿って、どこやらで落としてしまった目を探した。
「んー…と、えー…と…、あ、あった!ってやだもうずい分下じゃないの!」
イライラと編み棒を引き抜いて、失敗箇所まで毛糸を解く。
「本当に私、こういうのの才能ないのね…」
インスタント麺のようにびよびよになった毛糸を引き引き、思わず弱音を吐いてしまう。


マフラーを編もう、と思い立ったのは今年の2月。
高校受験も終わって時間が出来たエレオノールが、ずっとやってみたいと考えていたこと。
エレオノールにとって編み物は初めての挑戦、母親に教わって格闘するも、桜が咲く時期になってもそれは完成しなかった。
毛の物を着る時期が過ぎても、エレオノールは一生懸命編み続けていたが、流石に梅雨の頃には毛糸を触っていられなくなり、湿度が低くなってきた秋口辺りから再度取り出し、今に至る。


のだけれど。
数段編んでは数段解く、その作業をエレオノールは延々と繰り返している。
毛糸はなかなか予定する形を成してくれず、幾度も解かれる毛糸は次第に毛羽立ってきてモヘアのよう。
勉強は破格に出来るエレオノールも、お世辞にも器用とは言えない。
編み図はしっかり頭の中に入っているし、カウンターなんか使わなくても段数を忘れることもない。
なのに、初心者であることを考慮に入れても、編み目は揃ってないし、目数は合っていても知らぬ間に増やし目と減らし目を行って帳尻が合っているだけだし、ただのメリヤス編みにもところどころに捩じり目が入って模様がついているし。
それでも何とか頑張って『継続は力なり』と呪文のように唱えながら編んだ結果、それなりにマフラー的な長さにはなってきているのだが。


「クリスマスには間に合わなかったけど…バレンタインには、間に合わせたいし…」
この、想いの丈を込めまくったマフラーと一緒に告白をするとエレオノールは強く決めたから。
これが仕上がらないといつまでも告白できない、告白できないでいるうちに、向こうに彼女が出来てしまうかもしれない。
エレオノール的には不本意だけど、妙にモテる人だから。
そんなわけで、眉間に皺を寄せた難しい顔で黙々と毛糸と戦い続けていた。
だから、
「おーい、エレオノール。入るぞー」
間延びした声と一緒に隣の住人が窓枠を乗り越えてエレオノールの部屋に入って来た時、彼女は落とした目を編み棒で懸命に拾っている最中で。
作業に集中するあまりに侵入者から、編みかけのマフラーを咄嗟に隠すことが出来なかった。
しまった!と青くなる。


「な、ナルミ…」
「?何やってんの?おまえ」
エレオノールの珍しい姿に鳴海の目が丸くなる。
見つかってしまった、ナルミに。
ずっと内緒でここまでやってきたのに。
「何?それ」
サプライズにしたかったのに。
あげる本人に、見つかってしまった。


鳴海は隣家に住むお兄ちゃんで。
エレオノールよりも十も上だから『幼馴染』とはちょっとニュアンスは違うのだけれど、社会人4年目なのにガキっぽさの抜けない鳴海と、年齢の割には格段に大人びている高校一年のエレオノールの精神年齢はそんなに変わらない。か、エレオノールの方が下手したら上か。
家が隣同士で、鳴海の部屋とエレオノールの部屋は向かい合わせで、昔から自由にお互いの部屋へと、窓伝いに行き来をしていた。
尤も、鳴海が大学に入った辺りから自室に彼女を時に連れ込むようになって、エレオノールが鳴海の部屋に窓からお邪魔することはなくなったけれど。
エレオノールが小3のバレンタイン前、いつも通りに遊びに行った折、半裸の鳴海と見知らぬ女がベッドの上で縺れていた現場に遭遇した衝撃は今でも忘れられない。


そんな経緯もありで窓から出入りするのは今や鳴海だけなのだが。
いつも編み物をする時は必ず、窓にカギをかけてカーテンを引いて、きちんと自衛をしていたのに、今日はすっかり失念していた。
鳴海はズカズカとエレオノールの傍らにやってきて腰を下ろすと、ちょいちょいとマフラーを突く。
「めっずらしいなァ、おまえが何か作ってるのなんか、初めて見たぜ」
鳴海の瞳が興味で光っている。
「で、何作ってんの?」
「あ、あの…これ…」
「雑巾?」


エレオノールは自分の耳を疑い、「は?」と訊き返した。
あわあわと動揺していた可愛い気持ちが一気に消える。
鳴海が本気で雑巾だと思っているのが、外連味の無い澄んだ瞳からよく分かって、エレオノールは余計にムカついた。
「毛糸で雑巾作るわけないでしょ?」
エレオノールの額に青筋が浮かんだ。
鳴海のために編んでいるというのに、その当人から雑巾認定されてしまった物体を、どんな顔で「プレゼントです」と言って渡せと言うのか。


「ほら、話題になったコトもあったじゃん?洗剤使わなくても落ちる、とか」
「ナルミが言ってるのは、アクリルたわし、じゃないの?」
「ああ、たわし。雑巾じゃなかったか」
すまん、と明るく謝られても。
もうこの際、雑巾でもたわしでも、マフラーじゃなければ大差ない。
「要はそれ系だろ?」
「違うわよ!」
けれどエレオノールも負けず嫌いだから誤魔化しもしたくなく
「私はマフラー、編んでるの!」
と、語気を強めて言い切った。


「ま、ふら?マジで?」
信じらんねぇ、という気持ちを視線にまるで隠さず、マフラーと紹介された得体の知れないソレを鳴海は恐る恐る指で摘まむ。
「だ、だってこれ、メッタメタじゃねェか…人間が身につけるモノにはとても…」
「い、今は製作途中だからよ!完成した暁にはそれはもう、ちゃんと…」
「編み物って…後から何とかなるモノなのか?」
編み物事情は男である鳴海にはよく分からないけれど何にしても、怪しい基礎の上にはそれなりの建物しか建たない、んじゃないか、と思わざるを得ない。


とはいえ、誰にでも初めて、という時期はあるし。
エレオノールが不器用なのは小さい頃から知ってるし。
頭でっかちのエレオノールが物作りの楽しさを覚えたのなら喜ばしいこと。


どれどれ、と鳴海は床の上の『初めての編み物』とかいうタイトルの本を取り上げた。
ふむふむ、と編み方のページを読み込んで、不貞腐れた顔で編み物を再開するエレオノールの手元と見比べて、「なるほど」と鳴海はポンと膝を打つ。
「どれ、ちょっと貸してみ」
切りのいいところで半ば強引に、エレオノールから編み棒を奪い、毛糸を繰った。
「もう、勝手に…!」
「何だか面白そうじゃねぇの。少しやらせろよ。どれどれ…?」
鳴海の厚い手、太い指が相手だと号数の大きな編み棒も竹ヒゴにしか見えない。


鳴海は本と手元の間を幾度か視線を行き来させた後、「OKOK」と呟きながら、編み物初体験とは思えない軽快さで一往復し、「はい」とエレオノールに返して寄越した。
エレオノールの口が尖る。
どう見ても、鳴海の編み目の方が綺麗に揃っている件。
指が太過ぎて編み物の風情なんてゼロだったクセに。
「結構楽しいな、コレ」
今度自分でも作ってみようかな、なんて屈託なく笑う鳴海に、エレオノールは沸々と怒りが湧いた。



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