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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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おとぎ話をモチーフとした創作です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Fairy  Tale

 

beauty and the beast.

 

 

 

 

 

 

広間のテーブルで鳴海がこどもたちと絵を描いていると、そこにぞろぞろと女の子たちを引き連れたギイがやってきた。こどもでも、ゾナハ病に苦しんでいても、『いい男』が好き、というところが皆きっちり女なのだ。テーブルの椅子に腰掛けるギイの周りに女の子たちもめいめい椅子を持ち寄って座る。

「ねえ、ギイさん。またお話をして」

「私、美女と野獣のお話がいい」

「やれやれ、女の子というものはいつでもどこでもプリンセスの話が好きなものだ。でも、美女と野獣は昨日話したばかりだろう?それどころか、大抵の物語は話し尽くしてしまったな」

ギイは少し考えて、

「ならば、美女と野獣の話に少し創作を加えて話してみるとしようか」

ギイはゆっくりと話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Once upon a time...

あるところに拳法家の青年がいました。

 

 

 

「それってオレのことだろ」

ギイが話し出してまもなく、鳴海が口を挟む。

「…話の腰を折るな。このチョンマゲイノシシ」

「だってよー、ここいらで『拳法家』ってオレしかいねぇもん、なあ?」

鳴海はこどもたちに同意を求める。

「おまえは下手な動物の絵でも描いているがいい」

ギイは鳴海を無視して話を進めた。

 

 

 

青年の住む国は悪い魔王のばら撒く奇病で国民は苦しんでおりました。小さい子供たちまでもがその魔手にかかり、その苦しんでいる姿を見過ごせない青年は魔王を打ち滅ぼすために戦いを挑みました。青年は苦戦を強いられましたが、最後には魔王を見事倒しました。

 

 

 

「やっぱなー、オレって話の中でも強ぇよなあ、ギイ」

「話の腰を折るなと言ってるだろう?おまえはこども以下だ、まったく」

 

 

 

魔王は滅びる間際、青年に言いました。

「おお、何と忌々しい男だろう?この私の息の根をとめるとは…!最後の力を振り絞り、おまえに呪いをかけてやる。誰もおまえがおまえだと気づかないくらいに醜い姿に変えてやる。おまえが誰からも愛されない、世界中から迫害されるような恐ろしい姿に変えてやる。まあ、慈悲のひとつも残してやろう。その方がより残酷と言うものだ。おまえがその醜い姿で愛する女から愛を勝ち得ることができたら、おまえは人間の姿に戻れるだろう。ただし10年を過ぎたらおまえは一生その姿だ。そうして全てに絶望し心まで醜くなるがいい」

魔王は恐ろしい断末魔とともに青年に呪いをかけました。青年は見る見る間に、角と尻尾が生え、牙が伸び、爪は鉤爪となり、膨れ上がった身体は剛毛に覆われてまさに悪魔としか言いようのない姿に変わりました。

 

 

 

「やっぱりなー、悲劇の主人公には試練はつきものだよな。それにしてもこの魔王、今際の際によくしゃべるな」

「……もう、おまえなど、このままの姿でいるがいい」

「えー、そりゃねぇよ」

「ならば少しは黙っていろ」

 

 

 

青年には結婚を約束したきれいな娘がいました。しかし、この姿では娘の元に帰ることもままなりません。言葉も話せなくなった青年は魔王の言葉通り人々から迫害され、「悪魔」と罵倒され、一目のつかぬ山奥の奥の奥へと逃げひとり悲しく暮らしました。一方、娘は青年の帰りをずっと待っていました。でも、何年経っても青年は戻りません。魔王の振り撒いた病が国中から消えたので青年が魔王を滅ぼしたことは誰もが確信していましたが、こんなに時が経っても戻らないということはおそらく青年は魔王と相打ちを果たしたのだろうと皆考えました。娘は銀色の瞳と髪を持ったそれはそれは美しい娘でした。

 

 

 

(鳴海はここで何か言いたそうな顔をしたけれど、またギイに文句を言われるのでぐっと我慢した。)

 

 

 

娘には同じく銀色の瞳と髪をした兄がいました。この兄は娘に何重にも輪をかけたような筆舌に尽くしがたい美貌の持ち主で賢く聡明でユーモアもあり、女性だけでなく全ての人の心を掴む卓越した話術を持ち、全く非の打ち所もない素晴らしい人物でした。

 

 

 

ギイの話しぶりからその『娘の兄』がギイ本人のことであると察したこどもたちがクスクス笑う。

「おまえ、自分のことをよくそこまで褒められるなあ」

「何を言うか。事実だろう」

「……」

 

 

 

素敵なハンサムガイの兄は妹に言いました。

「仕方がない。彼は世界のために命を落としたのだ。もう彼のことは忘れて誰か他の良い人の元に嫁いでおまえの幸せを見つけるといい。そもそも僕はあいつはおまえに釣り合わないと常々考えていたのだ。馬鹿だし粗暴だし無知低脳だし、低脳だけならまだしも脳ミソまで筋肉でできているし、言葉の使い方を知らないし、礼儀作法もなってないし、腕っ節しか取り得がないし、全く洗練されていないし、アルコールの味が理解できないなんて何しにこの世に生を受けたのか僕には理解できないのだよ」

 

 

 

 

こどもたちは大笑い。

「…おい、誰のこと話してんだよ!よくもまあ、オレの悪口がスラスラ出てくるな?それに話の流れがおかしいだろ?ここはふつー『彼を信じて待つのだよ』とか言うのが普通だろ?おまえらもここ、笑うところ違う!」

「いや、普通ならこんなイノシシマンに可愛い妹をあげたくないと考えるだろう」

「おまえなああ」

「さてさて、低脳ゴリラは放っといて先に進もう」

 

 

 

 

でも美しい妹は銀の瞳に涙をいっぱいためてこれまた更に美しい兄に言いました。

「お兄様、私は彼が死んだとは思えません。彼は笑って『すぐに戻ってくる』と私に言ったのです。彼は私に嘘を言ったことがありません。何か戻れない事情があるに違いないのです。だから私は彼を待ちます」

「でもおまえは泣いてばかりいるではないか」

「彼が死んだことを受け容れて彼を忘れて笑うより、彼が生きていると信じて彼を想って涙を流している方が、私にとっての幸いなのです」

立派な兄は可愛い妹の気持ちを汲み、彼女の幸せを願いました。娘は言葉通り、ずっと青年の帰りを待ち続け、そして年月が流れました。まもなく、魔王の定めた10年が過ぎようとしていました。そうなると青年は死ぬまでこの悪魔の姿でいなくてはなりません。絶望に打ちひしがれた青年は深く薄暗い世界でこのまま朽ち果てる運命を受け容れました。でも、その前にどうしても愛する娘の姿を一目でもいいから見たいと思うようになりました。

死ぬと決めたのだ。何も怖いものなどない。

青年は山を下り、行く先々でその姿に恐怖した人々に石もて追われ、矢を射掛けられ、身体に数多の傷を負いながら、娘の住む町へ向かいました。

もう彼女は他の誰かの元に嫁ぎ、幸せな家庭を築いていることだろう。それでもいい。彼女が幸せなら。オレのことは忘れてたっていい。ただ、最期に一目だけ、その姿を目に焼き付けることができれば、それでいい。

青年は血を流しボロボロになりながら、やっとの思いで娘の住む、自分の故郷に戻りました。ここでもやはり、懐かしい見慣れた顔が自分に武器を向けます。女子供は家の中。もちろん娘も家の中に閉じこもっていました。でも娘はどうしてか、胸騒ぎがします。心臓がドキドキするのです。娘は両親の止める声を振り切って表に飛び出しました。そこには大きな野獣がいました。悪魔の風貌で、地獄の犬の声で慟哭しています。娘の心は恐ろしさで凍りつきました。青年はすぐに娘を見つけました。この10年、ずっと思い続けていた娘は少しも変わっていません。青年は夢中で駆け出しました。その背中に無数の剣や槍や矢が突き刺さります。それでも、青年は、最期の力を振り絞って娘に花を一輪差し出し、その場にくず折れました。それは、青年しか知らない、娘の好きな花。娘は瞬時に悟り、青年の名前を叫びました。駆け寄って、その硬い毛を掻き分けて、その瞳を覗き込むと真っ黒い瞳が笑っていました。娘の瞳から涙が零れました。

「…ただいま」

「お帰りなさい…」

待ち人が遠巻きに見守る中、野獣の姿は消え、青年の見るも無残な姿が現れました。青年は愛する娘の胸に抱かれ、その命は天国へと旅立ちました。

 

 

 

 

かわいそう。女の子たちが口々に言う中、

「オレ、死んじまったの?可哀想じゃん、オレ。ハリネズミだし。アンハッピーエンドはどうかと思うぜ」

ギイはふっと笑った。

 

 

 

 

涙に暮れる娘の前に彼女の立派で美しいナイスガイの兄がやってきました。

「大丈夫。泣くことはない。実は僕は偉大なる魔法使い、大賢人だったのだよ!僕には不可能の文字はない!」

まさに神降臨!天使のような清らかさ!鳥肌が立つほど神々しい兄は魔法の杖を振りかざすと青年の魂をいとも簡単に呼び戻しました。息を吹き返した青年は

「命を助けてくださって心より感謝をいたします!もう貴方様には足を向けて眠れません!貴方様をこれから神と信じ崇め奉ります!」

と言いながら、その光り輝くように恐れ多い靴の先に額をこすりつけました。町人もそのまばゆいばかりの兄の姿と奇跡としか言いようの無い兄の行いを、詩吟にし物語にして代々語りついでいったとのことです。

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ。

「納得いかねー…。なんでオレがそんなに卑屈になんなきゃいけねぇんだよ?」

「それくらい、おまえも僕に感謝しろってことだ。おまえはどうも僕に命を助けてもらったことを忘れがちだからな」

「最後、話が変わってるじゃねぇか」

「そんなことはない。この話は娘の兄の偉大さがあってのものなのだ。

おまえと娘の幸せはすべてその兄のおかげだ、ということを忘れるな」

「なんで絵空事でそんなに恩着せがましく言われなくちゃなんねぇんだよ」

「……絵空事じゃないかもしれないぞ?」

「けっ!大体、そんなすごい魔法使いならおまえが魔王を最初から倒しにいきゃーいいだろ?それに簡単にオレを探せるだろ?10年間何してたんだよ?」

「傍観。僕は別におまえが一生野獣でも痛くも痒くもないからな。それに呪いがとけたところで特に風貌の変化はないだろう。おまえこそ何をそんなにムキになっている?絵空事だろう?」

「うるせっ!一発殴らせろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

こどもたちが楽しそうに笑う。

これは鳴海が明るくて儚い夢を見ていた頃の、ほんの短い温かい時間のお話。

 

 

 

End

 

 

 

postscript     正確には『美女と野獣と美男子』のお話。この後、まもなく鳴海には過酷な運命が待ってます。これはその直前の、まだゾナハ病の本当の恐さに鳴海が気づいてないころの出来事、と思ってください。

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