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『からくりサーカス』鳴しろSS置き場です。
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7.喜雨



目眩がする。
同じ唇なのに、どうしてこんなにも柔らかさが違うのか。


しろがねはそっと唇を触れ合わせた後、今度はナルミの下唇を挟むようにして軽く吸い上げた。緊張のためいささか乾いた唇に、濡れた粘膜の感触、伝う僅かな唾液の潤い。
ドクドクと勢いを増す血流に困惑して視線を彷徨わせれば、間近に銀色の睫毛に縁取られた瞳と目が合った。濡れたような銀の瞳が細く笑ったように見えたから、ナルミは自分がからかわれているのだと感じた。しろがねの行為はひどくゆったりとしていて余裕が垣間見えて、興奮している様子はまるで感じられない。
こっちはこうして、ただ唇に軽い悪戯を受けているだけでも全身が煮え始め、理性の糸が加速度をつけて引き攣り始めているのが自覚できるというのに。


確かにしろがねとは主客関係にあり、ナルミの立場はかなり弱い。先刻「出て行く」と口にしてはみたものの行く当ても帰る当ても、記憶が戻る当てもないのだ。病院に連れ戻されるリスクを思えば、心苦しくともしろがねの元に身を寄せている現状がベストであり、彼女の気分を損ねることは避けた方がいいのは分かり切っている。
分かってはいるが、そんな弱い立場を逆手に取られ、純粋な男心と性的欲求を弄ばれるのはあまりにも我が身が気の毒ではないだろうか。
ナルミは大きく身じろぎをしてしろがねの唇から僅かに逃れた。


「おまえなあ…最後までヤらせる気もねえクセに」
性質の悪い冗談は止めろ、と言ってやろうとした気概はしろがねの更に深い口づけに敢え無く撃沈された。髪に挿し込まれた細い指が柔柔と頭皮をなぞり、黒髪を梳る。
「ん……っ」
しろがねの指先に思いがけず与えられた繊細な快感に、ナルミは眉間に深い皺を刻んだ。白くてやさしい両手がナルミの頬を包む。首を傾け深く合わさる。しろがねが伸ばした舌先は、迎え入れられるのが当然の如く、ナルミの口腔に滑り込んだ。鼻腔を満たす甘い唾液の匂いに更に目眩が増す。生々しく淫靡な女の舌が男の舌を絡め取る。
下腹部に落とし込まれた肉欲の火は今や業火と化し、ナルミの理性の糸は潔いくらいにぶっつりと切れた。


男と女の攻守が滑らかに交代した。
ナルミの大きな手がしろがねの丸い頭を包み、有無を言わせぬ力で引き寄せた。肉厚の舌が、今度はしろがねの口腔で暴れ出す。ナルミに舐られる度にしろがねの腰から力が抜けて行く。男の欲望を隠さない荒げた舌の動きに、女の鼻からはくぐもった甘やかな音が漏れた。
豊満な胸が厚い胸板に押し付けられ、その弾力を誇示する。ナルミの両手がしろがねの腰を鷲掴み、自分の腹に跨るその中央に、硬く猛った肉をグイと押しつけた。
「は…ぁっ」
しろがねの身体が小さく震え、彼女は思わず顎を引く。


布地越しにも分かる、その硬度と熱量、そしてしろがねが躊躇を覚える大きさ。初めて家に上げた日は、これほどまでとは思わなかった。サイズなんて誰のも同じだと考えていた。これまでセックスを気持ち良く思ったこともない彼女は、特にそれらに興味もなかった。
けれど、ナルミのこれは。これが自分の中に入るのかと疑問にも思う。畏怖すらも感じる。けれどそれ以上に、ぞくぞくする期待感を否めない。
両肩に掛かる細い紐をナルミがゆるゆると下ろしていく。締め付けから解放された乳房はナルミの眼前で威厳たっぷりに白い肌を晒し、その突端は瞬く間に男の唇に齧り取られた。声にならない嬌声が上がる。


次に天地が逆転する。ナルミはしろがねの背中をソファに倒すと、その下半身を覆う布を剥ぎ、その両脚を大きく開かせる。既に蜜で濡れそぼった銀色の草叢から銀の瞳へと視線を転じると、そこには女の素直な情欲が浮かんでいた。
ナルミは性急にTシャツを脱ぎ捨て短パンから片足を抜くと、一息にペニスをしろがねの肉壺に埋めた。前戯も愛撫も皆無のまま、ナルミはしろがねを抉った。









「どういうつもりだよ、おまえ」
一戦を終え、胸元でぐったりと四肢を放り投げているしろがねに向かいナルミは言った。まだ呼吸は荒いまま、厚い胸板が上下している。
「……今後、私たちが『共生』していくために…私はあなたに『不自由』をかけたつもりだが」
「は…?」
しろがねの言ってる意味がよく分からない。
「…メリットもデメリットもイーブンでなければ。さっき、そういう話をしていたろう?」
「確かにそうだけどよ…」
全力で『運動』して更に縺れた黒髪を掻く。
「これのどこがオレにとっての『不自由』で『デメリット』なんだ?性欲の面倒までみてもらっちまって、至れり尽くせりなメリットに拍車がかかっただけじゃねえか」


記憶喪失の男でも、自分が出逢った中で一番のいい女だと言い切れるしろがねを心行くまで抱いて、溜まりに溜まっていた日照りの解消が出来た。しろがねは見てくれだけではなく、『ナカ』も絶品、それも、ゴムの用意なんかないから途中まで生で、どれだけ気持ち良かったか。
ここまで書き連ねた事実のどこに『不自由』があると言うのか。
「…あなたは私を抱きたいか?」
「抱きてぇよ。おまえが許してくれるんならな」
愚問、故に即答だ。するとしろがねは
「抱いていい」
と言う。
「ただし、必ず私を満足させてくれ。今回みたいにな」
妖艶に微笑むしろがねに、ナルミの下腹部が再び熱を帯び始める。


「私が求めたら、それこそ何回でも」
先の『一戦』と括られる中で、ナルミの射精回数よりもしろがねの絶頂回数の方が多いのだからこれまでのところ、しろがねからの要望には応える自信は山ほどある。やはり、これのどこが『不自由』だ?と思った。が、しかし
「それと…セックスするかどうかは私の気分次第。あなたには誘う権限ないから」
との言葉に頭が固まる。
「あなたがどんなにしたくても…私が求めなかったら何日でも我慢して」
「何日…も?」
「そう。その間は、自分でしてもダメ。私が求める時に、求められるだけ、出来なくなるでしょう?」


しろがねという甘い味を覚えた男に、その媚態を見せつけながら触れさせない。腕を伸ばせば届く快楽を我慢しろと、要は、お預け状態のまま放置された犬になれと。
「おまえ…ワザと焦らす気なんだろ?」
「ふふ…分かる?」
しろがねが楽しそうに目を細めた。
「ね、けっこう…デメリット、でしょう…?」
細い指がはち切れんばかりに面を上げるペニスを扱くので、ナルミは求めに応じ、彼女の身体を胡坐を掻いた己の中心に縫い付けた。





身体を漕ぐリズムに合わせ、しろがねの口元から甘やかな歌がこぼれる。
「だから……ナルミ、どこにも行かないでね……」
しろがねのくれるキスはどこか寂しい香りがした。



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